日本床矯正研究会 第二回全国大会

皆様お元気ですか?
私は先日(5月28日)に私の所属している日本床矯正研究会の第二回全国大会の開催地である大阪へ行き、大会実行委員として参加して参りました。
とても有意義で盛り上がった大会でしたので、皆様にもご紹介したいと思います。
”床矯正を文化に!”を合言葉に2020年に床矯正研究会から日本床矯正研究会へと新たに結成され、全国に支部を作り活動をしております。昨年より全国大会として年1回大都市圏で開催を始めております。
今回は食育の話がメインで開催されましたので、そのご報告をしたいと思います。
今回のメイン講師は株式会社eatright japan代表取締役 安武 郁子様です。
フードコーディネーターを手がけ、その後食育推進団体イートライトジャパン(後のeatright japan)を設立し、食育実践ジャーナリストとして講演・執筆活動を行なっている方です。
今回の講演では食育について非常に興味深いお話をされました。
テーマを一言で言うと、「食が選べる人は人生が選べる」ということです。
どういうことなのか興味ありませんか?
まず、”食育”とはどういうことでしょうか。実はこれは古い言葉です。約100年前に、明治時代の軍医・石塚左玄という人が書いた著書「通俗食物療養法(1898年)」や明治のジャーナリストである村井弦斎の報知新聞の人気小説「食道楽(1903年」に「体育も知育も才育もすべて食育にあると認識すべき」と記載されています。また、当時の文部省の文献には、食育・体育・知育・才育・徳育を総称する「五育}の言葉がありその中で何よりも優先されたのが食育でした。
現在では西洋で、特に北欧において食育が進んでいます。デンマークでは字が読めない、計算が出来ない幼少期から、楽しく、見てわかる教材で学びます。学校給食の「食育・体育」ポスターでは、食材、加工品、甘いお菓子、ジュース、牛乳などを擬人化して競争でゴールする場面を書き、牛乳や黒パンを先頭で、次に食材など体に良い、栄養価の高いものを先にゴールさせ、加工品や甘いお菓子など体に害をなすようなものを転ばせたり、杖をつかせたり、トップとはかなり遅れた位置において表現しており、これを見ることで何を食べるのが良いかを分からせて身に付けさせております。またデンマークの消費者省のポスターでもさまざまな食べ物とさまざまな人種の子供がスポーツや遊んでいる絵を使って「良い食べものを選んで食べ、元気に仲良く遊びましょう!」と学ばせております。
さて、皆さんは子供がお菓子をもっと食べたいといったらどうしますか?食べすぎだからとやめさせますか?食育が浸透している国では違うようです。そちらの考え方は食育に対し、体育の考えも加えて「体育と食育は両輪」という考え方を持っております。食育は摂取するのに対し、体育は消費です。つまり体にとって食育はINであり、入であり、足し算の考え方で、体育はOUTであり、出であり、引き算だという考えで、お互いのバランスが取れていることが重要です。ですので、おやつをもっと食べたかったら消費=OUTの要素の運動=体育も行なえばよいことになります。
なのでデンマークのお母さんの正解は、”食べて良いわよ。そのかわり食べた後、そとで30分走ってきなさい。”と言って子供に考えさせて選ばせることになります。子供は”じゃあ、今日はいいや、また明日食べよう”ということになります。
また、子供に食べ物はただおなかを満たすだけではなく、子供自身が考えて食べる「食の5W1H」を実践しています。

  • What(何を食べるの?)
  • Who(誰と、食べるの?)
  • When(いつ、食べるの?)
  • Why(なぜ、食べるの?)
  • How(どのように、食べるの?)

日本ではとてもそこまで実践できないですよね。
このように幼児期からの食育・歯の健康教育を学んできた北欧ではその結果、デンマークやスウェーデンには寝たきりの老人がほとんどいません。それに対し日本では寝たきりの老人大国世界一で、世界に類を見ない速度で胃ろうが普及しているそうです。
北欧で寝たきり老人がいない理由として
幼児期からの食や歯の健康教育、生活養育があり、生活優先教育が寝たきり老人ゼロの国を実現させたこと、人間らしい死に方を大切にしている(人間を人工的に生かすことを生命への冒とくと捉えている)ことがあげられます。
野生の動物では、歯を失ったときはその動物の死を意味します。それが自然の摂理です。デンマークを始め、北欧諸国では自分の口で食事が出来なくなった高齢者には徹底的に嚥下訓練が行なわれます。それでも難しいときは無理な食事介助や水分補給を行なわず、自然な形で看取ること一般的だそうです。日本のように胃に直接栄養を送る胃ろうなどで延々と生きながらえさせられるのは虐待と考えているそうです。
マズローという人が欲求の5段階説を唱えています。最初に生理的欲求があり(寝たい、食べたい、排泄)、次に安全欲求があります。その次が所属と愛の欲求(仲間とのつながり)で、その次が承認欲求(認められたい)が来て、最上級の欲求が自己実現欲求(望む自分になりたい)となります。これが衰えとともに後退して、人生の最後まで残る欲が「食欲」だそうです。そのため、食育を実践して、良食(=eat right)習慣を身に付けて「食欲」を守っていくのが生きていくうえで重要です。最後までお口から味わって食べるために食べられるようにする歯科の役割は大きいのです。
しかし多くの人は食育など教わったことはないと思います。安武さんはこれを車の免許にたとえて多くの人が”無免許で食べている”と言っております。どういうことかと食という運転に対して知識(自分に必要な食べ物)がわからず、技能(食べ方)を知らないということです。車は事故を起こさないよう運転するために必要な知識と技能が必要ですが、食べることも同じです。「知識」として自分に必要な食べ物を選び、「技能」として良い食べ方を日々実践して身に付けることです。
安武さんはこの問題に対し「kids in the kitchen」という台所育児を提唱しています。台所を子供に開放して手伝わせることで
・”やりたい”と夢中に遊び、試行錯誤する
・生み出した自発的な遊び、協調性ややる気、忍耐力などの能力を身に付ける
・自己肯定感を高める
このように生きていくために必要な「非認知的能力」をはぐぐむことができます。キッチンではたくさんのお手伝いや活躍できることがあり、ありがとう!と声をかけることで子供は喜ばれてうれしい気持ちになります。また、自分で手伝ったり、作ったものは苦手だったものでも食べることが出来るようになります。kids in the kitchenを通じて食べることの知識や技能を身に付け、何を食べたらよいか、どのように食べたらよいかを教わり、または自分で考えて実践して行くことが出来、成人病も自ら防ぎ、健康寿命を延ばしていくことが出来ます。これが冒頭で触れた「食が選べる人は人生が選べる」ということです。何をどのように食べるかで人生が変わるという事です。
また、食べたいものを自分で作れる力は「生きる力」となります。
もっと詳しく知りたい方はeatright japanの公式ホームページhttps://www.eatright.co.jpをご覧になってください。参考になる本も紹介されております。
私たち歯科は口腔を育てて守っていく役割と、食育にも携わり食べ方にかかわっていく役割も託されるようになりました。安武氏の歯科に対する期待も大きくやりがいと責任感を痛感させる大会となりました。
われわれ日本床矯正研究会ではこのように口腔を育て守っていく活動に取り組んでおります。
会のプロモーションビデオも作りましたのでよろしければご覧下さい!