ご自分の歯が今何本残っているか数えたことはありますか?

皆様、お元気ですか?もう3月で春が早く来ないかと待ち遠しいです。

しかし、札幌はまた大雪が降りましたね。もうひと頑張りしましょう!

 

さて、皆様ご自分の歯が今何本残っているか数えたことはありますか?

そもそも成人のひとは健康なら歯が何本あるかご存じでしょうか?
人間は歯が全くない状態(無歯期)から生後、下の前歯の乳歯AAが生えてきます。その後上下の前歯BAABが生えてきて1歳半ほどで奥歯も生えDBAABDまたはDCBAABCDの歯列となり、3歳までには乳歯列が完成し(乳歯列期)、上下20本のEDCBAABCDEの歯列になります。
その後、6歳前後から永久歯への歯の生え代わりが始まり(混合歯列期)、永久歯の奥歯67の萌出も始まり、15歳前後で親知らずを除く永久歯列弓76543211234567の萌出が」完成し、全部で28本の歯列となります(永久歯列期)。

 

ここから一生をかけて歯を守っていく戦いが始まります。主に虫歯と歯周病との戦いです。

これに敗れるとどうなるかというと、健康寿命に関わってきます。健康寿命とは寝たきりにならないで生活できるまでの寿命のことです。

 

たとえば、歯の本数によって食べられるものが制限されていきます。

歯が全部残っている状況から、10本失われるまでは(18~28本歯がある状況)フランスパン、酢だこ、スルメイカ、たくあんなど食べ応えのあるものを食べることができます。さらに12本まで歯を失うと(残り6~17本歯がある状態)レンコン、せんべい、かまぼこ、きんぴらごぼうなどがまだ食べられます。さらに歯を失うと(0~5本歯が残っている状態)バナナや、うどん、茄子の煮つけなどきわめて柔らかいものしかたべられません。もちろん入れ歯をいれることである程度まで食べられるようになりますが、食べるということに対してかなりのダメージを受けることになることがお判りでしょう。

ですから、いかに歯を失わないようにしていくことが健康寿命を伸ばすことになり、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)を高く維持するためにとても重要なことです。認知症の予防にも大きく影響します。脳の刺激に大きな影響を与えるためです。

 

その歯を失う2大要因となる虫歯と歯周病について解説していきましょう。

 

最初に虫歯について解説いたします。

虫歯はだれでも知っている歯の病気ですね。これは虫歯菌による感染症です。発症すると歯の硬組織が侵され、歯が崩壊していきます。

虫歯は本来人体には存在していません。生まれてから虫歯菌に感染して発症する感染症です。他人から感染して菌が定着しますが、できるだけ感染する時期を遅らせることで虫歯菌に対する感受性を抑えることができます。

私は札幌市の乳幼児健診と中学校の学校検診を担当していますが、昔に比べると虫歯の早期の発症は激減していると感じます。その反面歯並びの悪さや、口腔機能の発達不全が増えてきていると感じます。こちらの問題のほうが後々歯を失ってしまう原因に大きく関係してくるのではないでしょうか。

歯はものを食べたり飲んだりすると口腔内のペーハー値(PH値)が低下して表面のミネラル成分が溶け出して行き、時間が経過すると唾液の影響などで中和してPH値が戻りミネラル成分を吸収して再石灰化し、もとに戻ります。この歯の修復機能がうまく働かないと、歯が白濁した状態のいわゆるCOという状態になります。この再石灰化がうまく機能しない原因はいくつか考えられます。

小さなお子さんを持っている方にお聞きします。おやつやジュースをどのように与えていますか?回数を制限したり与える時間を規則的にしている方は優秀です。PH値が元に戻る時間を稼いでいるからです。そうしないで飲んだり食べたりを繰り返すとPH値が元に戻る暇がありません。そうなると再石灰化をする時間帯も少なくなり、ミネラル成分が戻り切れなくなり歯の表面が傷がついた状態になり表面が白く白濁した初期う蝕(CO)の状態になりやがて修復不能の本当の歯に穴が開いた状態のう蝕(C1以上)に移行してしまいます。

 

もう一つはう蝕感受性が高い子供です。これは早期に虫歯菌が感染すると虫歯菌が定着、増殖しやすくなり、より虫歯菌が活動しやすく、歯の再石灰化を邪魔します。もう一つは唾液の緩衝作用です。唾液には酸を中和する緩衝作用、リゾチームなど菌を殺菌する殺菌作用。免疫力を高める免疫作用、唾液を分泌して口腔内を湿潤させて保湿したり、洗い流す湿潤・自浄作用などが備わり、お口の健康に大きな役割を果たしています。この作用が弱いと虫歯にかかりやすくなります。最後に歯そのものの強度です。歯の表面はかたいエナメル質という鎧でおおわれています。科学的には歯の表面はアパタイトという物質が中心となり硬い組織を形成していますが、できたての頃は未熟でアパタイトもヒドロキシアパタイトという水酸基(OH-)の不安定なアパタイトが多いのですが、フッ素をとりこむことでフルオロアパタイトという頑丈なアパタイトに置き換わっていきます。これを助けるのがフッ素塗布です。ですので我々は定期的なフッ素塗布をお勧めしているのです。日本では普及していないのですが、外国では水道水にフッ素を添加して日常的に取り込むことで虫歯の発生を防いでいるのです。また、このエナメル質の厚さや硬さも個人差があります。虫歯などで歯を削ると簡単に削れる人と、なかなか削れない人がいてエナメル質の状態にもかなり個人差があると感じています。虫歯はこのように虫歯菌、エナメル質、時間、栄養源のすべてが揃って初めて発症するのです。

唾液の力は、虫歯が発生するいろいろな要因の中で非常に影響力をもっております。したがって唾液の量が多く、PH値を中和する働きが強いとなかなか虫歯が発生しません。

しかし、寝ているときは唾液の量が減ってしまい、寝る直前に飲食すると唾液の働きが不十分で十分に口腔内のPH値を戻すことができません。また、口を開けて寝る傾向のある人も口腔内が乾燥して唾液の働きが弱くなってしまいます。

寝る前に飲食したら、PH値を高めるお茶や牛乳をとることをお勧めします。

 

あとは虫歯にかかりやすい時期があります。

エナメル質が脆弱な成人になるまでの期間は虫歯ができやすいところに注意が必要です。

乳幼児期の初期は上の前歯の歯と歯の間に注意しましょう。奥歯がすべてそろった3歳以降は奥歯の溝や奥歯と奥歯の間が虫歯ができやすくなります。

その後6歳くらいになると6歳臼歯の萌出と上下の前歯の永久歯への交換が始まります。6歳臼歯はしっかりと萌出しないと磨きずらく、歯質も弱いので虫歯になりやすくなります。虫歯が進行して歯の神経を失い、さらに虫歯が再発して最後には歯を抜くことになります。成人の患者さんで歯を失っている部位で一番多いのがこの6歳臼歯である6番の歯、第一大臼歯です。非常に重要な歯です。歯並びにも大きな影響を与えるので、できるだけ健康な状態を保ってほしいです。そのためには検診や早期のフッ素塗布、溝をシーラントで封鎖するなどの予防処置が大切です。

その後中学生に多いのですが、歯磨きをサボって不潔にすると上の前歯が痛んで歯面が白濁します。放置すると今度は穴が開いて大変なことになります。上の前歯の歯と歯の間や臼歯部の歯と歯の間も虫歯ができやすいので、虫歯の感受性が高い人はデンタルフロスを使ってお手入れすると良いです。その時期を過ぎると歯が強くなって虫歯ができずらくなります。しかし、老年期にさしかかると唾液の量が減り、歯茎も下がってくるのでこの時期特有の根面う蝕というエナメル質よりやわらかい歯質の層が露出して歯の根元が虫歯になってしまうので、注意が必要となります。

 

虫歯も各ライフステージによって管理が必要ですので、定期検診は欠かせません。歯を失う他の要因は後ほどお話しますね。