こどもの口腔機能について①

smiling child

皆様、お元気ですか?
前回は小児の食事の時の観察についてお話ししました。
今回は口腔の機能獲得について重要な仕組みである感受性期(臨界期)についてお話ししていきます。

感受性期って聞いたことがありますか?

感受性期とは臨界期とも呼ばれ、一体どういうことかというと、一生に一度しかない絶対期間で、脳や体が最も成長する期間とされています。
例をあげると、アヒルなど鳥類が最初に見た動くものを親と認識する学習能力があります。これは生まれた直後の「感受性期」に物事がごく短期間で覚えこまれ、それが長時間持続する「刷り込み」があります。

また、かわいそうな実験なのですが、生まれたばかりの子猫の片目を2週間ほど見えなくしてしまうと一生視力を失ってしまうそうです。これはどういうことかというと、大切な感受性期に視覚刺激が無いと脳が一生必要ないと判断してしまうそうです。なぜかというと、脳はたくさんエネルギーを使うところで、無駄なエネルギーを使わないために、次のようなシステムがあります。

脳の神経はたくさんありますが、それを伝達していくために「髄鞘」という絶縁体が必要な神経のネットワークにできていきます。脳がこの神経機能が必要か、不要かを判断し、必要な神経機能のネットワークのみ髄鞘化していきます。髄鞘化された機能のみ残っていくのです。
そして、人間にはさまざまな「感受性期(臨界期)」が存在します。

・視力の感受性期:0~2歳

視神経の「髄鞘化」は生後半年ぐらいから始まり、2歳くらいに完成します。
2歳までにスマホをじーっと見せたり、眼帯をしたりするとその子は視力が一生上がらなくなるそうです。
弱視(眼鏡で矯正できない視力低下)のこどもを調査すると、乳幼児期に目の病気や手術のために一時的に眼帯をかけていたことが分かったそうです。そのため現在では、2歳までの子供には眼帯をしないことになりました。

・絶対音感の感受性期:0~4歳

聴神経の「髄鞘化」は生まれてから4歳ころに完成するそうです。

・運動能力:0~4歳

子供をオリンピックの選手に下かったら、遅くとも3歳までに取り組みをはじめなければ困難だそうです。
つまり、感受性期に獲得できなかったものはあとから獲得できないということです。
そのため、大人で自転車を乗れない人は一生乗れないそうです。本当かどうかわかりませんが、あの羽生選手も自転車に乗れないそうです。
どうしてこのようなことがあるのでしょうか。
それは人間は生理的早産の状態で生まれてくるからだそうです。
生理的早産とは、様々な環境に適応できるように未完成の状態で生まれることです。
さまざまな環境によって生じる刺激に応じて必要な神経細胞のみ「髄鞘化」してその環境に適した体に変化していくようです。
例えば、暑いところに生まれて適応した人と、寒いところで生まれて適応した人では体の汗腺の数が異なります。暑いところで生まれた人は発汗のため汗腺が多くなり、寒いところで生まれた人は熱を奪われないため汗腺が少なくなるそうです。
このことは、人体は遺伝だけでなく、環境や経験によって体を多様に変化させていくことを教えてくれます。
このことは、脳機能や骨格、顔の形は「感受性期(臨界期)」での適正な刺激、すなわち「嚙む」という刺激によって多様に変化していくということになります。
皆様お判りですか?“噛む”行為が刺激となってどれほど発育に影響を与えてるかということを。
以前スキャモンの発育曲線について触れましたね。脳や骨の80%は乳幼児期までに完成すると。
赤ちゃんの頭囲の大きさを測ってみると、成人の男性で56cm、女性で54cmであるのに対し、出生時33cm、1歳45cm、3歳49cm、6歳で50cmに成長し、3歳で成人の9割も成長していることがわかりました。
これは脳頭蓋や顔面頭蓋の「感受性期」は早いということを示しております。
これは上顎骨に口腔がつながっているので、口腔の感受性期も6歳までということになります。これは6歳以降は感受性期を過ぎていて6歳の口腔環境は12歳まで変わらず持続するということになり、歯並びの育成について大きな意味があります。

口腔の「感受性期」は乳幼児期です。

この時期に適正な刺激を与えなければなりませんが、なんだと思いますか?
「哺乳」です。ちゃんと哺乳させたかどうかで口腔内の環境が変わります。
赤ちゃんは感受性期(臨界期)に噛んで頭蓋骨に負担をかけています。
この時期に適正な哺乳をさせることが大切です。
歯が無く、流動物をとるのにどうして噛んでいるのかという疑問がわきませんか?
赤ちゃんは哺乳時おっぱいを噛むようにして哺乳します。その際舌を動かして前方から後方へ送り込んでいます。噛む練習をしているのですね。
飲んだ時に舌が前上方に上顎骨、切歯骨、口蓋骨の部分を押して、前上方に負担をかけております。また口唇も使い動かしています。
こうして0歳から1歳の間に急激に成長していきます。
生後1年までの哺乳や食環境が悪いと子供たちは大変なことになると思いませんか?
もし、おっぱいでなく哺乳瓶を使って飲ませるのであれば唇だけでくわえて飲める哺乳瓶を使ってはダメです。しっかりと噛まないと飲めない哺乳瓶でなければなりません。離乳食も柔らかいゼリー状のものばかりでもいけません。そういうことをしていると顎がV字状になって狭くなり、歯が並ばなくなります。
先程、口腔の感受性期の話で、6歳から12歳まで口腔内の状態は変わらず持続するというお話をしましたね。といういことは、6歳までにすでに良い歯並びになるかどうかは決まっていることになりませんか?
その基準は発育空隙や霊長空隙あるかないかです。
発育空隙とは乳歯が永久歯へスムーズに生え変わるために顎骨の成長によって一時的に歯列に隙間ができる状態で、霊長空隙とは霊長目動物に認められる特有のもので歯列期において、上顎乳側切歯・乳犬歯間、下顎乳犬歯・第一乳臼歯間に認められる空隙です。
成長が良いとこのような空隙が6歳までにできてきます。空隙の有無は口腔の発達の目安の一つです。
乳歯列のすきっぱの子はとっても発育が良いのです。
具体的にはどのくらい空隙が必要なのでしょう。
一般的に上顎の乳歯列の前歯4本BAABの幅の合計は24.30mmです。一方永久歯列の前歯4本2112の幅の合計は31.96mmで両者の差は7.66mmなので、スムーズに永久歯列へ交換するには7.66mm必要となります。
つまり6歳前後の生え替わりの時は乳歯と乳歯のあいだに空隙が上顎では7mm以上、下顎では5mm以上必要ということになります。
上顎に関してはBAABも2112も切歯骨というところから生えてきます。
すなわち、乳前歯部の空隙のある歯列弓と狭窄して隙間のない歯列弓の差は切歯骨の成長の差だということになります。切歯骨の成長は6歳くらいで終わってしまいます。
切歯骨、つまり上顎骨の成長の感受性期は0~6歳の間です。この期間にできるだけしっかり噛む刺激を与えて上顎骨を成長させなければなりませんね。
でも一番大事なのは哺乳のようです。哺乳でしっかり上顎骨を刺激しておくといいことがあります。この時期に十分な刺激があり上顎骨を成長させ早くに乳歯列に隙間ができてしまうとそれ以降は何もしなくてもこの状態が維持されて、良い歯並びに移行できてしまうようです。

つづきはまた次回お話しします。