義歯(入れ歯)のお話

入れ歯

皆さま、ごきげんいかがですか?

3月に入り、ここ北海道でも少しずつ春が感じられるようになりました。気温の上下が激しくなるので体調を崩さないように気を付けてください。

さて、今回は義歯(入れ歯)のお話をします。

入れ歯をお使いの方はいらっしゃいますか?いつから入れてらっしゃいますか?満足されていますか?

入れ歯の歴史は古く、外国では鉄製の入れ歯が作られていました。それに対し、日本では入れ歯師という職人が木を削って入れ歯を作っていたようです。とても器用ですね。

現代では型を採って口の中の状態を再現した模型を作り、そこに合わせて基礎床という入れ歯の土台をまず作ります。歯と咬み合わせるところにパラフィンワックスという柔らかめのろうの土台を盛り上げ噛んでもらい歯型を残すことで上下の対合関係を決め、上下の高さと前後の位置を決定します。

それから実際に使う人工歯という入れ歯専用の既成の歯を並べて、歯にひっかけて入れ歯を維持するクラスプという金属製の金具と、入れ歯を補強したり、入れ歯と入れ歯の部分をつなぐ連結子として使用するバーという金属の板も入った完成に近い形のワックス義歯という未完成の仮の入れ歯ができてきます。

ここで試適という実際に口の中にワックス義歯を入れて試してみる工程がはいります。

高さは適正か、かみ合わせは適正か、クラスプやバーは適合しているか、外形は十分か、人工歯の大きさ、並び、形、色は問題ないか調べます。こちらでOKを出したら、今度は患者さんに見てもらい気になるところはないか、気に入ったかどうか確認してもらいます。

ここで修正点があるとその場で修正できることは修正して、できないところは技工所に戻してやりなおしてもらいます。

技工所で修正してもらった場合はもう一度試適します。そこで満足のいくように仕上がっていたらいよいよ完成となります。

どうやって完成するかというとワックス義歯をまるごと埋没材という泥の中に埋めると埋没材は石膏のように固まります。それを高熱でワックスや仮床の部分を溶かして入れ歯の床の部のピンクのレジンを溶かして流し込んで固めます。そうすると人工歯を残してワックスと仮床の部分がピンクのレジンにすっかり置き換わって、バリを取りていねいに研磨して入れ歯が完成します。

ワックス義歯の試適の時にどんなにぴったり合っていても、完成時の工程で置き換わるレジンが重合収縮を起こすのでどうしても変形が起きます。そこで、セット時に調整して適合を良くしていきます。この仕上がり具合が依頼する技工所によって変わってきます。

余談ですが、昔卒業後に大学の医局に残っていたころ、アルバイトのために週一である歯科医院に勤務していました。そこは予約をとらない歯科医院でスタッフやドクターもたくさんいたのですが、担当制でもなく患者を来た順番に入れ、ドクターも順番に担当します。そこの歯科医院の売りは早く技工物を入れることでした。発注する技工所にも急がせていたと思われます。そのため信じられないくらい早く入れ歯ができてくるのですがまったく合わず、ひどいときは入れ歯に穴が開いていました。仕上げがいい加減なのですね。これではどんなに試適で合わせても、まったく違うものが完成されてきてしまいます。

当院では信頼のおける技工所にていねいに作ってもらっているので安心してください。

このように入れ歯の完成までにはかなり手間がかかっています。最大の問題は入れ歯本体のレジンの重合の際どうしても変形してしまうことです。そのため大きな入れ歯になってしまうと変形のためゆるくなったり、強く当たって痛くなるところがあるので調整は必ず必要で、入れ歯ができてきたばかりでも内面の裏打ちのやり直しが必要な場合があります。

その変形を最小限に押さえて総義歯を作っている歯科医院があり、研修に行ったことがあります。三重県にある歯科医院で、外科の研修もお世話になりました。そこは自前の技工所を持ち、自慢の重合器を用いて入れ歯の変形を最小限に抑えられることが特徴で、リンゴが丸かじりできる総入れ歯を売りにしておりました。ただし入れ歯を作っていく工程がかなり複雑で難しく、入れ歯も100万円オーバーもするので当医院では普及が難しいと判断して導入は見送りました。

その歯科医院では総入れ歯に自信があるので条件の悪い歯はどんどん抜いて総入れ歯にする方針でした。部分入れ歯だと自分の残っている歯ばかり噛もうとしてしっかり噛めないからだという理由からです。(これは考え方の一つとして合っていると思います。残っている歯が原因で痛みから逃れるため力を入れて噛めないこともあるからです。しかしかなり総入れ歯に自信がないとできないことだと思います。)

たしかに入れ歯の部分より自分の歯の部分で噛んだほうが歯根膜の反応の感触がありますので噛めている感じがするのでしょう。しかしそれでは噛み癖がつき、噛むバランスが悪くなってしまいます。やがて残っている歯に負担がかかりさらに歯が動揺したり歯周病が進行していき、歯がさらに傾いたり浮いたりしてどんどん使えなくなり、折れたり割れたりする場合もありますが、歯が痛くなって使えなくなります。

また、入れ歯の出し入れの際や、入れ歯が動くことで生じる入れ歯をひっかける歯(=鉤歯)に負担がかかります。入れ歯の適合が良ければそれほど影響がないのですが、適合が悪いと入れ歯が動いたり沈んだりして鉤歯を引っ張ってしまい、鉤歯の歯周病が進行して骨が吸収していきやがてダメになってしまいます。

では、入れ歯は入れないほうが良いのでしょうか。

歯を失ってそのままにしておくと歯は動きやすいところに動いていく性質があるのでまず失った歯の隣の歯が倒れてきます。さらにかみ合っていた対顎の歯が噛み合わせを失って伸びてきます。こうして次第に噛み合わせが変わって乱れてきます。そうなってから治療をすると治療が難しくなり、簡単にいかなくなり場合によっては患者さんとお話しして妥協した治療になることがあります。そのため歯を失ったら入れ歯、ブリッジ、インプラントの選択をしてすぐに治療をする必要があります。

ブリッジは欠損部の両隣の歯を使うので、未処置の健康な歯があると健康な部分のはを削る必要があります。インプラントは外科手術をしてインプラント体を顎骨に埋入しなければなりません。この中で入れ歯が一番簡単です。ただし鉤歯を痛めてしまう欠点もありますが、歯が残り少なくとも対応できます。

また、歯を失っても他に噛むところが残っているから要らないという方もいらっしゃいますが、入れ歯は噛むときのバランスを保つという役割もあります。入れないと片咀嚼がひどくなり、咀嚼効率が低下してよく噛めなくなります。なので、是非入れ歯をいれましょう。

でも上記のように入れ歯を入れると痛いし、違和感も強いし、残っている歯を痛めるからイヤだ、バネも見えるから入れたくない!と思っている方はいませんか?

前置きがとっても長くなってしまいました。

画期的な入れ歯があります。

大阪の歯科医師でいらっしゃる中川瑛雄先生が考案された「ミラクルデンチャー」という入れ歯がございます。

ミラクルデンチャーの模型をお見せします。

この入れ歯の見た目いかがですか?金属のバネがありません。その代わりの部分も薄くて小さいです。入れ歯本体も薄くて小さいです。

なにより、この入れ歯取り外し方に秘密があります。ふつうの入れ歯のように外してみましょう。

あれ、外れない?しかも全然動かない。

この秘密は次にお話ししましょう。