皆さん、ゴールデンウィークも終わりましたね。充実した日々を過ごされましたか?
また、前回の続きです。
これまで口腔の機能の3つのうち
①食べる機能
②話す機能
をお話ししました。
最後に③呼吸機能についてもお話したいと思います。
呼吸は大きく分けて、鼻呼吸と口呼吸に分けられます。
口呼吸は健康の面でも成長の面でも大きな悪影響を与えていきます。
感染症を起こしやすく、免疫機能が低下します。鼻のフィルターを通さず、ばい菌が直接生体に入り込んでしまうためです。また、姿勢も悪くなり、口腔に負荷がかかりずらくなり、口腔が劣成長になったり、歯並びが悪くなるだけでなく、顔の成長の方向に悪影響を与え美しい顔を作ることができません。
口呼吸が習慣化すると、ばい菌が直接のどに到達し、防御のために口蓋扁桃が肥大化します。
また、口呼吸をするといびきをかきます。
考えられる口呼吸の原因は
・低位舌
・口唇閉鎖不全
・鼻腔の劣成長
・アデノイド(咽頭扁桃)
・狭い口腔
・口蓋扁桃肥大
などが挙げられます
この中で、アデノイド、口蓋扁桃は鼻腔の未発達に対する防御反応です。
舌機能、口唇閉鎖、狭い口腔の問題は不十分な哺乳により引き起こされると考えられます。
狭い鼻腔の原因は鼻腔の劣成長、つまり鼻腔を構成している骨の成長不足です。
これらの骨は「感受性期」での骨への負荷で成長します。
鼻腔は頭蓋の骨の一部なので、感受性期は神経型なので早く、5歳で85%、9歳で90%、12歳で95%完成します。
この鼻腔の上部は哺乳や咀嚼での上顎骨からの負荷で成長します。
哺乳時にはその哺乳運動で上顎骨に前上方へ負荷がかかり鼻腔を構成する骨が成長し、鼻腔が成長していきます。これは上顎骨の前方方向への成長となります。
そうです。鼻腔の成長も哺乳から始まります。
それでは哺乳での前上方への刺激がうまくいかなかった場合はどうなるのでしょうか。
上顎骨は、頭蓋に上方と後方で接していてこの部分のつなぎ目に骨が添加して成長していくのですが、これだけだとどんどん上顎骨は前下方に押しだされて下方に成長してしまいます。
そこに噛む力と舌圧が上顎骨へ上方への圧力となって負荷がかかり、上顎骨の成長方向が前下方から前方へと変更されるのです。
特に感受性期での乳前歯への負荷は上顎骨の前方成長のために大切です。
上顎骨(切歯骨)の感受性期は0~2歳です。
舌や歯牙からの上顎骨の前上方への負荷がなければ下方へ成長してしまいます。
舌や歯牙からの上顎骨の前上方への負荷が足りて居れば前方へ成長します。
そして前方へ成長している子供の鼻腔は広いです。
次に鼻腔はどういう働きをしているのでしょうか。
鼻腔は取り込んだ空気に中で乱気流を起こし暖かい空気を冷やしたり、冷たい空気を温めたりして肺や脳へのダメージを和らげます。生体のエアコンのようなものですね。熱中症の発症も守ってくれます。
鼻腔は上顎骨の前方成長で拡大していきます。
その拡大のためには感受性期での噛む刺激と飲み込むときの舌圧が必要で、適切に刺激を受けると鼻腔が成長していきます。
鼻腔の発達が不十分だと口呼吸の原因となります
そのため感受性期の口腔への負荷が足りなければ口呼吸になりやすいと言えます。
でも、すでに感受性期を過ぎた子供(3歳以降)はどうすればよいのでしょうか。
感受性期に獲得できなかった機能や成長は後から自然には獲得できません。
哺乳期を過ぎた子供にどのように対処するのでしょう。
これこそ歯医者の専門分野である噛む食育です。
食べる機能の話しに戻りますが、よく噛むための食育としていくつかのポイントがあります。
よく噛むための食育
①食べ物の与え方について
・前歯で噛めるように食材を大きくして、前歯がぶりをさせましょう。
調理する方の考える一口大は前歯がぶりの一口量より大きいです。
一口大は大きすぎて、口の中で処理できないと判断し、吐き出すか、噛まずに飲み込もうとします。
噛む回数は一口大<一口量(前歯がぶり)です。
同じ食べ物でも「前歯がぶり」して食べるのと、包丁で切ってから食べるのでは大きな違いが出ます。
例えば食パンを一口大に切って出したとします。
この一口大は食べやすいわけではなくてかえって誤嚥や窒息の危険があります。
口の中で処理できない大きさのものはちょっと噛んで丸のみになります。
また、食材を小さくし過ぎるのも危険です。
これは噛まなくて良いと脳が判断して、そのまま飲み込むと誤嚥します。
幼児期は脳が一口量を覚える大切な時期です。
前歯がぶりで一口量を覚えなかった子供は将来窒息の危険が大きいです。
・スプーン食べについてです。
スプーン食べはなるべくさせないほうがよさそうです。
スプーン食べは一口量を狂わせるからです。
スプーンで食物を与えると口唇のセンサーや舌の機能の成長が望めなく、食物も噛まずに丸のみしやすいです。
スプーンの大きさにも注意しましょう。
スプーンが大きいと噛まなくなり唾液も出なく、一口大で噛まずに水で流し込むようになってしまいます。スプーンを使うならティースプーンのような小さなものを使ってください。
・食事のレシピやメニューは変えなくても構いません。出し方を変えましょう。
例えばミカンジュースでなく、ミカンを丸ごと出しましょう。
カレーも具は後乗せで噛んでもらうようにしましょう。
巻きずしは「前歯がぶり」に最適な食材ですが良かれと思って一口大にすると口の中に放り込んでしまいます。
おやつも一口では口に入らないものを用意してください。
小さい食材は春巻きにしてかじりつけるようにすると良いです。
混ぜご飯や複数の食感の食べ物は飽きがこず、噛む回数がアップします。
そして、「前歯がぶり」は上の前歯に力がかかり、その力が上顎骨の様々な場所にも力が伝わり、中顔面部の成長に影響を与え、眉間の部分の骨が前方に成長したり、奥歯が生える骨のスペースがひろがり、奥歯がしっかり生えるようになります。
② 足を床につけるか正座で食べる
これも前にお話ししましたね。
良い姿勢で噛む力がアップします
誤嚥予防にもなります。
③ 水やお茶は食後に
食材を切って小さく出すと残しがちなのですが、そのまま出した方が完食するようです。
これは、切らないことで食材が自分の一口量になるからです。
そのため自分の口で処理できるので食べることができます。
そのようにして覚えた一口量は生涯身に付きます
食材をそのまま出すと自分の一口量になるよう噛んで食べるので丸呑みしなくなります。
食材を30回噛むことがりそうな状態ですが、「30回嚙みなさい」と言うのではなく、噛まないと飲み込めない食材を提供することが大事となります。
生野菜はよく噛む食材の代表なので、是非たくさんそのまま出してください。
また、「お茶は食後にお茶碗で」と言うのが日本の伝統でした。
食べ物をお茶で流し込む習慣は歯並びに影響します。
また、飲み込むメカニズム(嚥下=えんげ)も口腔内の成長に大きな影響を与えます。
プリンのような水分の多い食物は嚥下することが容易で、上あごに十分な舌圧が働かず上あごが広がっていきません。
逆にトーストなど水分の少ない食物は強い嚥下で、上あごに十分な舌圧が働き、上あごが広がっていきます。
それでは子供は1日に何回飲み込んでいると思いますか?
答えは600から2000回です。
飲み込むたびに舌圧が上あごにかかります。
これがお口ポカンの子供では上あごに十分な舌圧はかかりません。
よく噛み、しっかり飲み込むとお口が育って、鼻腔も育ち、正しい呼吸ができるようになります。
哺乳が十分できず口腔機能発達不全の子は、水分で流し込む食事では口腔機能を取り戻すことができません。ストローは特にダメです。舌が全く上に上がらないからです。
とにかくしっかり噛んでしっかり飲み込む食生活を身に着けさせましょう。