皆さま、もう年末ですね。今年は良い一年でしたでしょうか。
当院は新しい治療技術の導入でより満足のいく治療をすることができるようになりました。
今年を締めくくり当院の技術のほぼ全てをつぎ込んだ患者さんの症例をご紹介いたします。
この方は欠損補綴以外、当院のほぼすべての技術を導入して劇的に改善した患者さんです。
昨年の7月に来院され、主訴は前歯に穴が開いていてものを食べると痛い。左側の奥歯の上下両方の歯がしみるということでした。
、実際にお口の中を拝見しますとまず気になったのが開咬という歯列不正があり、前歯部が大きく離開していることでした。
主訴の部分を観察しますと左上の糸切り歯(犬歯)に虫歯で大きな穴が開いていました。
冷たいもの、甘いもの、温かいものでしみていました。全体のレントゲン写真(パノラマ)を撮影して確認すると歯の神経(歯髄)に近いところまで虫歯で侵されていました。
こうなると虫歯の状況は歯髄炎という段階に進行していて歯の神経を除去しないと痛みが取れないので歯の神経を取る治療を緊急に行いました。
レントゲンをさらに確認すると左の奥歯に数か所虫歯ができていたのと、奥歯を中心に骨吸収を認めたのと、奥歯の歯の周りにとげの様に歯石が付着しているのが観察されました。
また、右上の前歯3本が歯の神経を取る治療を受けていて、治療の仕上がりと経過は良いのですが、歯の神経を取った場所の穴を塞いだだけになっていて、これでは歯が欠けたり割れたりしやすく、だんだんと歯の色が暗くなっていき、審美的に問題があります。
また、被せ物は保険の部分的な銀歯(インレー)と前装冠が入っており、前装冠は冠と歯の境目が不適合となっていて、部分的な銀歯も虫歯を作る可能性が大きいです。
問題点をまとめると
①歯列不正(開咬)がある
②大きな虫歯が複数ある
③奥歯がしみる
④歯周病にかかっていて奥歯を中心に骨吸収がある
⑤不良補綴物がある
⑥保険の銀歯が入っている
⑦右上の前歯が根の治療をされているが被せ物が入ってない。歯の色が暗くなって審美障害を起こしている
皆さんは以上の項目のうちどれが一番気になるか、あるいは問題があると思いますか?
患者さんとしては痛みの問題が一番困るので②の虫歯と③のしみるという問題でしょう
しかし、一番の根本の問題、悪さをするラスボスは①の歯列不正(開咬)です
この状態ですと前歯のガイド、いわゆるアンテリアガイダンスが失われていて常に奥歯が接触して大きな負担がかかります。
こうなると歯周病が組み合わさると咬合性外傷を引き起こし急速に骨吸収が起こります。
また、奥歯の過剰な負担により歯の根元が欠けたり、歯の神経のセンサーが敏感になり知覚過敏が生じます。最悪歯が割れてしまうことがあります。
また、前歯でかじることができないので、咀嚼に大きな障害があります。奥歯でかじる、粉砕する、すりつぶすという咀嚼機能を全部引き受けなければなりません。これは大きな負担なのと、効率が悪いので食べるのに時間がかかります。もしかすると丸呑みしていたかもしれません。
また、唾液の分泌や食物の摩擦による歯の自浄作用が働きずらくなるので、歯が汚れやすくなり、前歯は虫歯の発生(左上の糸切り歯が虫歯になってましたね。しかも右上の前歯3本歯の治療を受けています。虫歯になったのでしょう)が大変起きやすくなります。
この歯並びの問題を放置すると前歯は虫歯が進行しやすく、奥歯は負担過剰や歯周病で歯の神経が病み、神経を取ることになり、さらに歯が割れたり、歯周病が進行することで歯を失う危険性が高くなります。
また噛めない事、口腔内の菌叢が悪いことで健康寿命に悪影響を与えることになります。
理想的な治療は歯周病を治療し、歯並びを改善してから長持ちして汚れを寄せ付けない被せ物を選択して審美的にも機能的にも良い状態の歯並び、かみ合わせを作っていくことだと思います。
この患者さんは今までご家族の介護で忙しく治療を受ける時間が無かったとのことでした。
現在は落ち着いたので最良の治療を受けたいというご希望でしたので当院で提供している治療法を最大限取り入れて提案させていただきました。
口腔内を詳しく検査して治療計画をたてました。
メインは歯の矯正ですが時間がかかるのと、いち早く痛みを取らなければならないので痛みを生じている虫歯の治療としみるのを改善することを優先しました。
根の治療中の左上の3番は神経を取りましたのでもう痛くありません。最後の薬を緊密に詰めたら仮歯にして最終的な被せ物を入れる時まで待ちます。
他の虫歯はまだ歯の神経を取らなければならないというところまで進行しておりません。
自発痛もないので歯周病治療を優先しました。歯周病治療は保険の流れで行くとある程度歯周病が進行している人には結構大変です。しっかりと磨いてもらうことが大前提でこれが毎日できないとせっかく良くなってもすぐに再発してしまいます。これは歯周病菌の除菌が完全でないので清掃状態が再び悪くなると歯周病菌も復活してしまいます。
また、歯周病の治療も機械的な汚染歯根面の掻爬と縁下歯石の除去となり、しっかり麻酔をかけたうえで外科的に汚染物質をとっていきます。
しかしこれは術者側にとっても受ける患者さんにとっても大変な作業です。
そこで当院では歯周内科という治療法を取り入れて歯周病患者に提案、提供しています。
まず、位相差顕微鏡を使用して口腔内からプラーク(汚れ)を採取して口腔内の菌叢と活動状況を確認します。
菌の種類と量を確定するためPCR検査を行いました。
その結果がこれです。
P.g菌が一番多く検出され比率クラスは最悪の4,T.d菌は3,T.f菌は少なめですが1となりすべて検出されました。この3つの菌Red Complexの全体の菌に対する割合は15%と高めで比率クラス最悪の4と判定されました。
歯周内科治療が強く推奨されます。他A.a菌が3,450個と非常に多く検出されました。1個でも検出されると治療が必要と判定されます。
昨年の8月より歯周内科を開始し除菌治療を進め1か月経過して歯周内科のプログラムが完了してから再度PCR検査を行いました。
結果はパーフェクトです!総菌数は約1/8まで減少、Red Complexはいずれも検出されませんでした。素晴らしいです。A.a菌も0となりました。
また、奥歯がしみることも和らぎました。これは歯周病菌を助けるカビ菌が歯の象牙質に侵入することで知覚過敏が起きるとも言われています。
歯周病の問題が解決したので、奥歯の虫歯を部分的なジルコニア冠で修復して次に矯正を始めました。
当院では成人矯正に対しアライナーと呼ばれる透明なマウスピースを使用して矯正する前歯限定のインビザラインGOを使用しております。
矯正中もワイヤーを使わないので審美的に優れており見た目も気になりません。しかも治療期間が最大5~6か月と短期間です。
その上アライナーをホームホワイトニングの薬剤のトレーとしても使用できるので矯正と同時にホワイトニングも行いました。歯がしみるのが改善したからこそ実現できたことです。
矯正治療は今年の1月から10月まで行いました。
途中経過です。
前歯がだんだん閉じてきていますね。
アライナーをはめている状態です。目立たないです。
通常より2倍時間をかけてゆっくりと矯正したため10か月かかりましたが満足のいく結果になりました。
見てください、口が閉じて開咬が治っています
あとは歯並びの後戻りを防ぐリテーナーを作って入れるのですが、その前にセラミックやジルコニアのきれいで長持ちする被せ物を入れ替える作業の最中です。
ミラクルデンチャーやインプラントなどの欠損補綴以外はすべて行っています。
皆さま、いかが感じましたでしょうか。もちろん保険治療も自費も皆様の許容範囲でしっかりとさせていただくので治療の際はご希望を遠慮なくお伝えください。よろしくお願いします。