位相差顕微鏡で見る口腔内細菌と歯周内科

皆さま、朝夕が涼しい気候になりましたね。昼も短くなり少し寂しいですね。寒暖差に注意して過ごしましょう。

さて今回はいよいよ歯周内科の特集に入ります。

 

あなたは歯周病ですか?

皆様の中で歯周病に困っている方はいらっしゃいますか?あるいは歯周病を自覚している方はいらっしゃいますか。それとも自分は歯周病かどうかわからない方はいらっしゃいますか?

最近歯医者にかかっている方は歯周病かどうかお知らせされていると思います。歯周組織検査という歯に接している周りの歯茎の深さを一本の歯につき4又は6か所計測していきます。それで深さが4mm以上のところがあれば、成人なら歯周病と診断されます。また全体のレントゲン写真(パノラマ写真)を撮ると、歯周病が進んで骨の吸収が見られるようになるとはっきりと診断がつきます。

歯周病かどうか気になる方は歯科医院を受診してください。満40歳、50歳、60歳、70歳の方は札幌市在住であれば市より歯周病検診の案内がきます。その中にある受診券をお持ちになると500円で歯周病の健診が受けられます。ただし治療は別料金です。

もし歯科医院に行かないのであれば、口臭がしたり、歯ぐきからすぐ血が出たり、歯がぐらぐらしたり、歯ぐきが明らかに腫れているようならば歯周病の可能性が高いので確かめてください。なんといっても成人の80%がかかる病気なので歯科を受診されたことがない方は一度受診をお勧めします。

そもそも歯周病とは何でしょうか。

 

歯周病は感染症

歯周病は感染症です。口腔内にはさまざまな口腔内細菌が定着して共生しています。現在ではこの細菌叢との共生関係が破綻した時口腔常在菌による感染症が発症すると考えられています。

虫歯と異なり、子供のうちに歯周病に感染するのはまれで、歯周病の細菌叢が完成するのは18歳以降です。しかし歯周病の細菌叢が完成しても不顕性感染といってすぐには歯周病の症状は現れません。年齢が若いと長年にわたって歯周組織の健康な状態が続くことが多いです。しかし、歯周病菌はずっとあなた(宿主)の状態を観察してすきをうかがっています。口腔清掃不良や加齢などの理由で歯周組織と歯周病菌叢の力のバランスが崩れて共生関係が破綻すると歯周病は発症します。中には一生発症しない不顕性感染のままの人もいるでしょう。

歯周病に対する考え方や治療法は時代によって変遷してきました。しかし、ずっと変わらないことは歯周病は感染症であるにも関わらず、口腔内に定着した常在菌であるがために抗生剤で数を減らしてもあとで容易に復活するために完全に追い出したり消滅させることが困難であるためです。

さらに口腔内で様々な菌と複雑にからみあって歯石を作り、細菌の塊であるバイオフィルムという物質をつくり薬物が容易に浸透しない強力なバリアを形成します。そのため抗生剤が効きずらく、治療は機械的なバイオフィルムの破壊、歯石等の汚染物質の機械的な除去が中心となり、治療にあたり術者側はかなりの細かい技術が必要とされや重労働となります。

現在の歯周病に対する考え方は歯周病の発症を防ぐためにあなたの(宿主)抵抗力をいつも落とすことなく歯周組織と歯周病菌叢との綱引きで拮抗状態を保ち続けることです。

それではこの拮抗状態が破れるきっかけとなる大きな原因は何でしょうか。

歯周病菌で代表的なPorphyromonas gingivalis(P.g菌)は栄養素として鉄分が不可欠です。鉄?そんなもの体のどこにあるのでしょう。たくさんありますよ。皆さんの血液には赤血球があるのは聞いたことがあるでしょうか。その成分であるヘモグロビンにはヘミン鉄が含まれ、酸素と結びつく役割があり鉄はヘミン鉄として血液中に大量に含まれています。

P.g菌は嫌気性菌なので歯周ポケットの中に存在しています。健康な歯周ポケットには血液が存在しないので通常は低栄養状態なのでじっと耐え忍んでおとなしくしています。そしていったん歯茎が炎症を起こし歯周ポケットから出血が始まると活動を初めて増殖して活発化して歯周組織との共生関係が破綻して歯周病が発症します。

それでは歯肉が炎症を起こすとなぜ出血するのでしょうか。これは歯肉の慢性炎症により内縁上皮という歯肉上皮のバリアが破壊され上皮が剥離してしまいます。こうなると歯肉内に出血を伴う潰瘍面が形成されます。みなさん転んだりして膝やひじを擦りむいたことがありますか?するむくと上皮がはがれて血が出ますよね。このような上皮がはがれて無くなった状態を潰瘍と呼びます。

口の中には通常28本の歯が存在しますが、もしこのすべてが歯周病で歯周ポケットに潰瘍を作り出血する状態だと仮定すると潰瘍面の面積はどのくらいになると思いますか?なんと手のひらサイズです!擦りむいた膝どころではありませんよね。これだけ多くの血を供給するわけですから恐ろしいですね。

そのため歯肉を出血させないように日ごろから念入りに口腔内の汚れのお手入れや歯肉のマッサージが必要となるのです。さらに歯周病が重症化すると磨かなければならない面積が増えて大変になるので挫折する人が多いのです。

また、歯肉から膿が出る状況は、歯肉の出血より状況は深刻で、歯周病菌と白血球が壮絶な戦いを食い広げて倒れた死骸が膿となって流れ出すのです。とても強い炎症が起こっているのです。

 

悪玉菌の頂点レッドコンプレックス

口腔内常在菌定着の話に戻りますが、生まれてから徐々に菌が種類を増しながらピラミッドのように階層を作って定着します。これは腸内でも起こることで、その菌の質が健康に大きく影響します。それはまたいずれお話ししましょう。

この口腔内のピラミッドは成人するまで大きく成長していきます。一番下の階層は小学生の時代に形成され主に病原性の低い細菌叢です。中高生ではその上の階層に新たな細菌叢が新たに形成され少し病原性が高くなります。18歳以降で最上階の細菌叢が形成されこれが一番病原性が高くなります。特にレッドコンプレックスという歯周病菌の3大病原菌が存在すると歯周病が発症して重症化する可能性が高くなります。

この最上階のレッドコンプレックスを形成させないようにしようとすると細菌叢のピラミッドが大きく成長しないようにすることが重要で、幼い時期になるべく多くの菌に感染しないことが重要なようです。

レッドコンプレックスの3菌種はPorphyromonas gingivalis(P.g菌)、Tannerella forsythia(T.f菌)、Treponema denticola(T.d菌)で歯周内科では必ずこの3菌種を検査します。

では実際に口の中で口腔内常在菌はどのようになっているのでしょうか。

 

位相差顕微鏡による口腔内細菌叢像

簡単に説明すると細菌には大小の違いがありますが点状の球菌、棒状の桿菌、糸巻状のらせん菌、長く大きなひも状のカンジダ、虫のように動き回るアメーバやトリコモナス、赤血球や白血球、リンパ球、上皮が剥がれ落ちたものなどが観察され、それぞれの量や密度、活動状況が確認できますが形態がわかるだけで実際になんの菌であるかは確定できません。

しかし、細菌の量や密度が低く、菌の種類も少なく非常に静かな像が正常菌叢です。

それに対し非常に悪い菌叢はいろんな種類の菌が密集して菌が激しく動き回り、濁流のような像です

当院では口腔内の細菌叢の存在や活動状況をリアルタイムで観察できるオリンパス社製の大型位相差顕微鏡で3200倍の高倍率にして細菌叢を観察でき、さらに静止画や動画を記録できます。

この顕微鏡像で悪い細菌がいるか、数が多いか、活動性を観察し、悪い菌叢かどうか判断を下します。そして悪い菌がいそうであれば細菌検査をすることを勧めて検体を採取して検査に出します。それで検査結果がでるのですが、これは次回に回しますね。

顕微鏡像をおみせしましょう。

まずは正常菌叢です。

 

正常菌叢

球菌、桿菌がみられますがらせん状菌はみられません。細菌の数や密度も少なくおだやかできれいな像になっています。

次に悪い菌叢です。

 

悪い菌叢

まず、細菌叢の密度が高く密集していますね。当然菌の数も多くなっております。動画で見ると濁流のようになっています。細菌の動きは非常に活発になっています。

球菌、桿菌の他にらせん状菌、カンジダ、アメーバ状の物質も観察されます。

正常菌叢との違いがわかりましたか?

最後に歯周内科を実際に行った人の顕微鏡像をお見せします。

最初はこのような状況でした。

これが歯周内科を始めて1か月も経過しないうちにこんなに改善しました。

 

人によっては1週間でここまで改善してしまいます。どうですか興味ありませんか?

 

次回からは歯周病菌についてもっと詳しく説明し、菌の検査、歯周内科の概要、治療について解説していきます。