熱中症と歯科の関係

皆さまお元気ですか?
暑いですね!札幌でも先日35℃近くまで気温が上がりました。湿度が低いのでまだ過ごしやすいですが体調管理に注意しましょうね。
さて今回は小児の口腔育成の続きのお話をしたいと思います。

 

熱中症と歯科の関係

まず、暑いので熱中症についてのお話をしたいと思います。
熱中症とは何かご存知ですか?
熱中症は脳のオーバーヒートです。
人は運動や作業をすると体の中に熱が生まれ体温が上昇します。しかし体温が上昇しすぎると体温調節機能が働き、末梢血管が拡張して皮膚に多くの血液が流れ込みたまった熱を体の外へ放出します。同時に汗をかくことで、その汗が蒸発するときにからだの表面から熱を奪い、上がった体温を下げようと働きます。

 

ところが、あまりに暑い環境に長くいると体温調節機能が乱れて体外への熱の放出ができなくなり、体内に熱がこもって体温が上昇します。すると脳の温度も上昇して脳内の温度が上昇することで中枢神経に異常が起こり、からだのさまざまな臓器に障害が出て、命を落とすこともある危険な状態の熱中症を発症します。
熱中症を防ぐには脳のクールダウンが必要です。その方法は2つ。汗腺を発達させて汗をかくことで汗の気化熱で皮膚の血管が冷却され、冷えた血液が脳を冷却します。もう一つは鼻呼吸をすることです。
脳をクールダウンさせることと鼻呼吸はどう関係しているの?と疑問に思われていると思いますのでもう少し詳しく解説しましょう。
鼻から空気を取り入れると、鼻腔という上顎骨の中の広い空間に空気がたまります。そこでは毛細血管の働きで冷たい空気は温められ、暑い空気は冷やされます。鼻腔は脳に近いので冷やされた空気により脳が冷却されます。これは鼻呼吸をすることによって機能するので、口呼吸では暑い空気がそのまま体内に入ってしまい、脳を冷やすことができません。鼻は細菌やウイルスを除去する優れた空気清浄機でもあり、空気の温度を調節するエアコンでもあるのです。ですので鼻呼吸は非常に重要な役割を果たしているのです。

 

このように熱中症を防ぐためには汗腺を発達させて汗をかきやすい体質にするのと鼻呼吸を促進することです。
ただし以前のブログでも触れましたが体の機能を発達させることができる感受性期というものが存在します。感受性期は一生に一度しかない 絶対期間 脳や体が最も成長する期間 で、汗腺の「感受性期」は早く 3歳以降は発達しないのでこの時までに汗腺をたくさん成長させるような環境に置くことが重要です。エアコンの効いた室内でずっと遊ばせるのと、お外で見守りながら思いっきり遊ばせるのではどちらが汗腺が発達できるでしょうか。お外にいて汗をかきやすい状態のほうが良さそうですよね。

 

それでは、3歳を過ぎてしまって汗腺の成長が止まってしまった 児童や生徒はどうすればいいのでしょう。
熱中症を防ぐために脳を冷却する方法はもう一つありましたね。鼻呼吸をすることです。口呼吸では吸った息を冷却することができず、熱中症の危険が高まります。
しかし鼻呼吸も上あごの成長が不足すると鼻腔が狭くなって鼻呼吸が苦手になってしまいます。
上あごの成長は脳神経の成長と関係しているので早く止まってしまいます。遅くとも10歳までには止まってしまうのでできるだけ早く成長させたいですね。もっと言うと6歳くらいまでで鼻腔の骨の80~90%が完成してしまうので早くから前歯を使ってよく噛ませて上顎骨に刺激(負荷)をかけることが重要になってきます。食事だけでなくトレーニング装置を使うとより効果が望めます。
でも、5、6歳になってからあわてて上顎骨を育てようと思ってもなかなか大変ですね。

 

上顎骨の感受性期と哺乳について

実は、上顎骨(切歯骨)にも感受性期があってそれは0~2歳なのです。
では、どうするのが正しい上顎骨の育成につながるのでしょうか。0~2歳までになにができるのでしょうか。

 

少し前のブログを思い出してください。2つ前のブログ(6月改正の保険内容を解説!)の最後のほうです。
私が携わっている1歳6か月の乳幼児検診で乳幼児の口腔内を観察していると、歯並びをさえぎるような物のない口の中で、最初の上の前歯4本BAABがすでにガタガタの歯並び、叢生になっているのを目撃して長い間疑問に思っていました。ほかの歯が並んでいて隙間がなくて仕方なくガタガタに生えてきたのではなく、もともと歯がまっすぐ並ぶだけの上顎骨(切歯骨)の成長不足だったということがわかりました。
では、切歯骨の感受性期に成長に最も作用するものは何だと思いますか?答えは哺乳です。歯が生えるまでの数か月間が 子どもの歯並びを決めているということです。人は哺乳する運動で切歯骨に負荷を与えます。そうすることによって切歯骨は感受性期であれば急激に成長することができます。切歯骨が成長するとBAABが正しく並ぶスペースができます。BAABは切歯骨の領域で生えて並びます。切歯骨の領域が不足するとAAが並んでもそのあとに生えてくるBBが正しく並ぶ場所がなくなり、AAの後ろに下がって萌出することになります。これで今まで謎だったことが明らかになりました。

 

また、哺乳は脳への刺激、かむ機能、送り込み機能、舌の運動、口唇の運動、鼻腔の成長に関わっているのであまり早い時期に離乳食へ移行すべきでないと考えます。外国や昔の日本では卒乳は今の日本の現状より遅くなっています。

 

離乳・卒乳の時期の目安の新分類

では、ここから日本床矯正研究会の前理事長でいらしゃる花田真也先生が新たにわかりやすく授乳、離乳の時期を口の中の状態と全身の状態で分類して提唱られたので、概要をご紹介したいと思います。
以前からの厚生労働省の時期区分は「離乳初期」(生後5~6か月後)、「離乳中期」(生後7~8か月後)、「離乳後期」(生後9~10か月後)、「離乳完了期」(生後12~18か月後)の4つに分類されていますが、画一的に生後の時期によって分類され、生体の個人差がわかりにくくなっています。

 

花田先生はこの分類に前の方に「離乳準備期」後の方に「幼児食前期」「幼児食後期」の分類を付け加え、全部で7つの段階に分類しなおしました。さらにこの分類に親しみわかりやすいようなサブタイトルをつけていますので、こちらも詳しくご紹介します。

 

①離乳食準備期(プレ離乳食期)
乳歯の状態:歯は生えていない
全身の様子:首が座る
食事の様子:離乳の妨げになる反射を無くしていく(指しゃぶりや手で物をとって口の中に入れるのをやめさせないなど)

 

②離乳食期(くちびる期)
乳歯の状態:歯は生えていない
全身の様子:寝返りをしてうつぶせになる
食事の様子:唇でとらえる

 

③離乳中期(ベロ期)
乳歯の状態:下の前歯が2本生える
全身の様子:ハイハイを始める
食事の様子:舌の上下運動でつぶす

 

④離乳後期(プレ前歯・歯ぐき期)
乳歯の状態:上下の前歯が2本ずつ生える
全身の様子:つかまり立ちをする
食事の様子:舌の左右運動ができ、左右の歯茎で噛み始める。前歯でかじり始める

 

⑤離乳完了期(前歯・歯ぐき期)
乳歯の状態:上下の歯が4本ずつ生える
全身の様子:つたい歩きから始まり、歩けるようになる
食事の様子:舌の左右運動ができ、左右の歯茎で噛める。前歯でかじれる

 

⑥幼児食前期(奥歯期)
乳歯の状態:上下の奥歯が2本ずつ生える
全身の様子:しっかり歩けるようになる
食事の様子:奥歯でも噛めるようになる

 

⑦幼児食後期(完成期)
乳歯の状態:すべての歯が生え揃う
全身の状態:なんでもできるようになる
食事の様子:ほとんどの物が食べれるようになる

 

どうですか?わかりやすくなりましたか?
あとは、どのステージでどのようなものをどのように与えるとか、各ステージでの注意点があるのですがまたの機会に解説したいと思います。

 

実際の育児中は来てもらうのが大変で、このような話をするときには連れてきたお子さんが3歳を過ぎていることも多いので、時間の取れる妊娠中に妊婦検診としてお伝えしたほうが良いと考えております。