皆様、いよいよ4月に入り新学期、新年度をを迎えましたね。新しい環境になった人もたくさんいると思います。頑張っていきましょう!
今回も前回の内容の続きです。
乳前歯部の空隙歯列弓と狭窄歯列弓の差は切歯骨の成長量の差であると説明いたしました。また、切歯骨の成長は6歳くらいで終わります。
しかし、調査をすると、6歳時に歯の空隙のある子は3歳時ですでに歯の空隙が確認されました。
では、歯の空隙がみられるような3歳の時の理想的な口蓋の形とはどのようなものでしょうか。
これはアルファベットの“D”という文字を90度左回転させたものに似ています。
ドーム状の歯列弓で、縄文人と同じだそうです。または、左右のCC(上顎の乳犬歯)の先端を結んだ線が切歯乳頭という部分の中間を通る状態だそうです。
3歳児の時点で歯の隙間が確認できれば6歳の時には問題なく永久歯と交換されるようです。
ということは3歳の時の状態が6歳になっても維持されるということになります。
すなわち3歳児で歯の空隙がある子は6歳になっても空隙があり、3歳児で叢生の子は6歳になっても叢生が見られます。
また、上顎骨を含めた顔面頭蓋骨の成長は生まれてから2歳までが最大となります。ということは2歳で歯並びに空隙のある子は何もしなくても空隙は閉じず、そのまま維持されるようです。一方乳歯列の空隙のない子は今後も空隙は無いままになるようです。
2歳でだいたいの歯並びが決まってしまうのですね。
繰り返しますが、感受性期(臨界期)とは、機能や形態が最も成長する時期で、上顎骨(切歯骨)の感受性期は0~2歳です。
歯が生え始めるときには、歯に空隙があるかどうかもう決まっているようです。
これは、歯が生えるまでの数か月間が子供の歯並びを決めていることになります。
では、歯が生え始めるまでに何をしていれば良いのでしょうか。
その答えは”哺乳“です。
生まれてきて、歯が生えてくるまでにしっかりとおっぱいで哺乳させるのです。歯が生えてからの対策ではもう遅いのです。もし、哺乳瓶を使うのでしたら、前述した噛まないと飲み込めないしっかりした哺乳瓶を使うべきです。
このようなことは誰も言いませんよね。
だれが伝えるべきでしょう。妊婦さんには歯科健診を受けることを勧められていますよね。
そうです。歯医者がこのことをしっかり伝えなければなりません。生まれてからだと子育てで忙しくなり、来ることができなくなります。妊娠中が一番時間があるときです。このときから、子供をどのように育てていくか、つまりどんな理想的な歯並び、口腔を育て上げていくか、さらに言うと、どんな顔にしていきたいかを考えて、そのための知識を得て準備していく必要があるのではないでしょうか。虫歯を気にする段階は終わったと思います。
私は1歳6か月健診を担当させていただいておりますが、まず、虫歯の子はいません。母乳を続けていたりやジュースをたくさん飲んでいる子は上の前歯が汚れやすく、虫歯になりやすいのですが、それでも虫歯になっている子はほとんど見かけません。
その代わり歯並びに関しては、昔乳歯列の叢生は100人に1人の割合と聞いたことがあるのですが、乳歯列に隙間が無い、又は叢生がある子の割合は5人に1人くらいの感覚です。歯が生えるのに邪魔をするものがないのになぜ並ばないのだろうと疑問に思っておりましたが、これで腑に落ちました。切歯骨の刺激が足りなくて切歯骨が十分に発育していなかったのですね。
今後はお母さんにそのことを伝えていきます。でも、6歳まで現在の状態を維持してしまうので遅いのですね。では、もう仕方のないことなのでしょうか。
そんなことはありません。ここからは我々歯科医師の出番です。このことは後程ご説明していきますのでお楽しみに!
このような口腔の大きさの未発達や、口腔機能不全の状況を口腔機能発達不全症と呼ばれています。
今度はこうなってしまう原因について詳しく考えていきましょう。
口腔の機能
口腔の機能は大きく3つに分けられます。
食べる機能、話す機能、呼吸の機能です。
まず、一つ目の食べる機能についてです。
もし、食べられないとしたらその原因はどこにあるのでしょうか。それは哺乳が不十分なまま、離乳食へ移行してしまったことによるようです。
これは発達の順序性という原理原則に反しているのです。
発達の順序性とは何でしょうか。
発達の順序性とは、1つの機能を獲得すると、その機能をもとに次の機能を獲得することです。
例えば、赤ちゃんが生まれてから、1人歩きするまでの順番、過程をみていきましょう。
①胎児の姿勢→②頭を持ち上げる→③首と肩を持ち上げる→④支えられれば座る→⑤つかもうとする→⑥1人で座る→⑦ハイハイ歩きする→⑧支えられて立つ→⑨つかまり立ちする→⑩伝い歩きする→⑪1人立ちする→⑫1人歩きする
この順番は飛ばすことも、入れ替えることもできません。この順番で機能を獲得していき、獲得した機能をもとに次の機能を獲得して、最後に一人歩きできるようになるのです。
⑦ハイハイに注目してみましょう。
ハイハイの効果、働きとしては
- 背筋、腹筋、腰が鍛えられる
- 反射神経の基礎を作る
とあります。もし、歩行器などを使って急がせて次をやらせようとすると、上記の機能の獲得が不十分で身につかなくなります。
すると、しっかり歩けない、転びやすい、転倒する時うまく手が出ない、組体操の下段で支えることが出来ないなどの障害が出てしまいます。
ハイハイをしっかりやってなければ次の機能である立ったり、歩いたりする機能が身につかなくなります。
これと同じことが口の中でも起こります。
すなわち食べる機能も発達の順序性に従って獲得されていきます。食べられないのはこの順序性に従っていないからです。
食べる機能の発達の順序は哺乳機能が完成して次の機能である食べる機能を獲得するのです。
では、哺乳期の効果、働きはなんでしょうか。
哺乳期は、嚥下(飲み込み)機能だけでなく、咀嚼機能、送り込み機能、舌機能、口唇機能など、様々な機能を獲得する時期で、単に栄養をとるためだけの時期ではありません。
哺乳は上顎骨への刺激だけでなく、咀嚼機能、送り込み、舌機能、口腔周囲筋を育成して食べる機能を獲得している大事な時期なのです。
哺乳時には咀嚼筋、舌筋だけでなく、舌骨上筋群の顎舌骨筋、顎二腹筋が使われます。さらに舌骨も引き上げられ、このような筋肉や骨が発達して歯牙の萌出の準備、咀嚼する環境が整っていきます。
また、口を閉じているときに舌背が口蓋の上にくっついて舌がうえにあがったままの状態になり、鼻呼吸をする環境が整います。
ですので、哺乳の時期は大変重要で、しっかりと時間をかけることが欠かせません。機械的に6か月を過ぎたからといって離乳食へ移行してはいけないのです。
離乳食へ移行する時期の判断としては、一人で座ることができるようになった、親が食べているのを欲しがるようになることがあれば、これがサインとなり、離乳食へ移行しても良いと言えます。
赤ちゃんは中には早産で生まれてくる子もいます。その子と正常な時期に主産した赤ちゃんが離乳食へ移行する時期が同じなのはおかしいと思いませんか?
高齢者から話を伺うと、昔はもっと長い時期哺乳させていたそうです。社会の変化でこちらの都合で哺乳の時期が短くなっているのではないでしょうか。
お母さんには、哺乳の重要性について伝えていきたいと思います。残りの話す機能、呼吸機能については後日お話しします。