札幌市西区山の手の歯医者「シリウス山の手歯科」院長の島貫です。
今回は歯の矯正について、前回の話の続きをします。
矯正には昔から2つの大きな流れがあります。1つは皆さんよくご存じの歯にブラケットという金具を固定してそれに針金を通して針金の力で矯正していくアメリカ式の矯正。
もう一つは取り外しできる床装置を使用したヨーロッパ式の床矯正。
後者はほとんど聞いたことが無いのではありませんか?わたしも大学の歯学部に入ってさえ全く知りませんでした。
といっても床装置を習わないわけではなく、あくまで脇役の装置で、ブラケット矯正に移行するまで、さらに悪化しないよう、少し良くなるようにするつなぎ的な役割しかありません。歯の矯正の本質は、歯列を十分並べるだけの歯槽骨をしっかり発育させ、口の機能を正しく使えるようにして、結果として正しい歯並びに誘導することです。
アメリカ式の方式はこれを無視した、体が完成した大人のためのやり方です。これを子供にそのままあてはめていることが多いのではないでしょうか。大雑把にいうと歯の隙間が足りないという問題に対し、アメリカ式は引き算、ヨーロッパ式は足し算です。引き算は歯を抜いたり、歯と歯の間を削ることで目的を達成することが多いです。針金の力で前歯部が前方に押し出されて、隙間を確保する足し算の部分もありますが、ヨーロッパ式は必要なだけ床装置で広げていきます。そのため、成長の終わった成人を得意とするのがアメリカ式、成長期の子供を得意とするのがヨーロッパ式といえるでしょう。
では、なぜアメリカ式の治療が日本をはじめ、全世界に広がっているかというと世界大戦を経て世界の中心国になり、豊かで成功した国としてのイメージ、憧れや存在感から、日本を始め世界に広がっていったと考えます。特に日本は敗戦国となり、アメリカの影響を強く受けました。それはそれでよいのですが、アメリカ式は大きな問題があります。
アメリカはご存知のように訴訟社会で、予定にないことが起こることは致命的なことになります。成長途中の歯並びに手を出すことは、予測と違うことが起こりえるので危険なので、もうこれ以上悪く変化しようがないという状態から矯正を始める理由となっております。また日本のような公的な保険制度もなく、プライベート保険より治療費が支払われ、治療期間や治療費に大きなばらつきがあるのを避ける理由もあり、本格的な治療は気が付いて時よりずっと後になってからになります。抜歯を容認するのも合理的な考えをするアメリカらしいところです。
別の話になりますが、0か100か、白黒の結論になりやすく、残せるかどうか怪しい歯はすぐ抜いてインプラントにするらしいです。インプラントも万能でないのでやはり歯は抜かないほうがよいのです。なので、虫歯や歯周病を作らないような歯並びを育成することが大事です。
話がそれてしまいましたが、日本で主流となっているのがアメリカ式の治療法です。
一方ヨーロッパでは早期治療として取り外しができる装置を使用して早くから矯正を始めます。
昔から日本が見本としているドイツでは小児期の矯正治療に国の保険がきき、1装置に100ユーロほどかかる(個数に制限あり)らしいです。古くから床装置を利用して小学生のうちに治療します。ですので、床装置による矯正は昔からある治療法ですが、日本ではマイナーな治療法でいろいろな都合により子供に対して行われることが少なく、みんな知らなかったということです。
歯の矯正(歯列不正)は親が子供をよく観察するか、歯科医院に定期的にチェックを受けるとごく早期に発見することができる病気です。いわゆる風邪のひきはじめで、ここでしっかり対策するとすぐに治すことができます。これを大したことがない、自然に治るのではあるいは歯科医師が様子を診ましょうと放置されると重症の肺炎になってしまいますので、気づいたときに受診してしっかり対策してもらうのが大原則です。(困ったことがあれば当院にご相談ください)。
次回小児の矯正についてお話しします。
*ドイツの話がでたのでドイツから影響を受けた歯科医療の負の遺産として保険で使われている金属(金銀パラジウム合金)についての問題もお話ししたいのですが、また別の機会でお話ししましょう。