歯周内科について詳しく解説していきます

Woman with gum inflammation, closeup

皆様お久しぶりです。札幌はもとより全国では猛暑が続いていますね。体調管理にお気を付けください。
今回から歯周病、歯周内科について詳しく解説していきます。
歯周病は歯周病菌による感染症であることは以前よりよく知られています。

しかし、抗生剤の投与だけでは菌の数を減らすだけで、根絶できずまた菌が復活してしまうので一時しのぎにしかならないのです。そのため歯周病菌の住み家を減らしていくこと、つまり機械的に菌の塊であるバイオフィルムを除去したり、歯周病菌が定着する歯周ポケットの中の縁下歯石を定期的に取り除いていくことが治療の中心でした。このため私たちもたくさん汗を流して治療しなければなりませんし、患者さんも毎日厳密な歯ブラシをしっかり行っていくことで安定した状態を保ってきました。お互い大変なことなので挫折する人、そもそも最初からそのような面倒なことをやりたがらない人も多く、歯周病が重症になるほどお手入れが困難となり誰でも気軽に治療を受けられるものではありません。
それでも少しでも状況を良くしようといろいろと勉強してまいりました。

まず、口の中の菌の話からしていきましょう。
大学に残っているときから歯周病について専門に勉強していましたが、まずはPCRを記録します。PCRといってもコロナで一般的にになったPCR検査ではありません。ここでのPCR検査とはプラークコントロールレコード(Plaque Contorol Record)の略で、歯の歯面を染めだして歯面の全体の何パーセントにプラークが残っているかをまず調べます。このスコアが少なくとも20%以下にならなければ話にならないということになります。
そのためまずは患者さんにPCRが20%以下になるように歯磨きを頑張ってもらうことになります。大学病院に来ていただける患者さんはそもそもモチベーションが高く、こちらの言うことをしっかり聞いてやってくれます。これが一般の開業医ではこれを守らせるようにすると、脱落者がいっぱい出ます。中にはこれをクリアしないと一切治療をしないという厳しい歯科医院もありますが。
歯ブラシをして、プラークを取り除いて口の中の環境をきれいにするのは大事です。しかし実は量より質なのです。
皆さん、お口の中はそれほど汚れていないのに歯肉からすぐ出血する人と口の中がプラークだらけなのに歯茎の出血や歯肉の腫れはそれほどひどくない人がいることをご存じですか?前者は感染性歯周炎で高病原性バイオフィルム(少量で発症)、後者は低病原性バイオフィルム(多量で発症)といわれバイオフィルムの質が違います。
歯肉から出血すると何がよくないのでしょうか?
REDコンプレックスと言われる歯周病原因菌の最悪の種類の菌は、血が大好きです。血の成分の中に鉄(ヘモグロビンヘミ鉄)が含まれていてこの鉄を栄養として増殖し、病原性を増していきます。歯周病が進行している人の感染して歯肉が潰瘍状になっている表面積を計算するとどのくらいになると思いますか?
答えは手のひらです。とんでもない面積が潰瘍状に傷つき、出血しやすくなっているのです。ひざをすりむいて広範囲に擦り傷になったら結構大変ですよね。じくじくするし、ばい菌がついて化膿しやすいですね。この違和感が口腔内で続いているようなものです。
ですので、歯茎の状態を調べるときには歯周ポケットの深さだけでなく、歯肉からの出血の有無が重要で、定期健診に移行するまでに出血のない歯肉の状態にすることが目標となります。
先ほどREDコンプレックス菌に触れましたが、これは簡単に口腔内に定着できるものではありません。
歯周病細菌のピラミッドというものを聞いたことがありますか?歯周病細菌は生まれてから成長していく過程でいろんな菌がピラミッド状に積み重なっていきます。最下層に定着する菌は主なもので15種ほど。小学生までの期間で定着します。病原性はあまり高くなく歯周病関連菌とも言います。このピラミッドの最下層から上の層は中高生の間までに定着する細菌です。主に10種類あり、毒性も高くなっていきます。頂点の層はレッドコンプレックスと言われ、3種の菌P.ginngivalis、T.forsythia、T.denticolaが知られています。歯周内科ではこの3つの菌は必ず調べます。非常に毒性の高い菌です。この菌は18歳以上にならないと定着しない菌で、しかも最下層、下層の菌のピラミッドのベースがないと存在できません。いかにその土台となる菌を増やさないかが重要であることにご理解いただけたでしょうか。また、菌の種類を増やさないことも重要です。これも一生ついて回る問題でピラミッドの底辺が小さいと存在する菌の種類と量が少なく、ピラミッドの底辺が大きいと量も種類も多くなります。レッドコンプレックスの菌が少ないか存在しない人はこの細菌のピラミッドが小さい人です。悪い菌が少ないので低病原性のバイオフィルムの性質で汚れが多くても歯肉の炎症はひどくなりません。ピラミッドが大きいレッドコンプレックス菌を抱えている人はたとえ汚れが少なくても、少量のバイオフィルムの存在でも感染してしまい、毒性が強いので歯肉がすぐひどく腫れてしまいます。
高校生になるまでに定着する菌の種類を増やさないように感染から身を守ることが大事ですね。
今、細菌ピラミッドという細菌の種類と量、バイオフィルムの質の話をしたのですが、せっかくなので歯周病の病因論の時代における変遷についてもお話ししましょう。
1930年頃には歯石除去により歯周病の病状がよくなったので歯石が主原因であると考えられていました。現在の常識はバイオフィルム(プラーク)です。
1960年ころにはバイオフィルム(プラーク)が原因で、生きた細菌の塊のバイオフィルムが原因とされ、バイオフィルムの中にどんな歯周病菌がいるかよりも量が問題視され口腔内を染めだして磨き残しを減らすことが歯周病の治療法、予防法とされ、徹底的なブラッシング指導が行われるようになりました。現在はバイオフィルムの病原性は量より質で決まると考えられています。
1975年頃には菌の培養法が進化して重度の歯周病患者から空気を嫌う嫌気性菌が10数種類も検出されました。(現在ではレッドコンプレックスという前述した3種類の菌種が歯周病菌とされています)また、歯周病菌は感染してすぐ発症すると考えられていたので歯周病好発年齢の中年期前に歯周病菌が唾液感染すると思われていましたが、現在は18歳以降に感染することがわかっています。
1990年ころには歯周病菌のDNAを検出する方法が開発されました。これは画期的な発明で、歯周内科のPCR検査にも応用されています。その結果歯周病菌が検出されるにもかかわらず歯周病の症状を示していない人が多数いることがわかりました。また、同じ歯周病菌の感染を受けても歯周病の重症度は患者さんごとに大きく異なることから歯周組織の抵抗力には個人差があり、これが歯周病の発症、進行を左右する原因とされました。現在では今度また詳しく触れますが仮に同じ性質のバイオフィルム(プラーク)が存在していたとしてもバイオフィルムの病原性が同じではないのです。バイオフィルムの病原性は歯周ポケットの状態によって変わるのです。私は歯周ポケットが出血がみられるかどうかを重要視しますがこれは歯周ポケットから出血があるときバイオフィルムは高い病原性を持つようになり、歯周病は進行します。これまではバイオフィルムの病原性が変化することは知られてなく、同じ歯周病菌の感染でも歯周病の重症度が異なるのは歯周組織の抵抗力の個人差とされましたがそれだけではありませんでした。
細菌の話は次回また続きをします。
最後に現在歯周病の治療は菌を一掃することは不可能なので、うまく共生して歯周病を発症しないようにすることが最新の考え方でしたが、私ども国際歯周内科学研究会のメンバーはさらに先を行って、歯周病菌を一掃して再感染しないようにする歯周内科の普及を目指しています。