歯周内科について

歯周病の進行状況

皆様お元気ですか?最近朝夕が寒いせいか、風邪を召している人をよく見かけます。風邪をひかないように注意しましょう。

それでは、引き続き歯周内科の話をいたしましょう。

 

歯周内科の誕生

そもそも歯周内科ってなんでしょう。歯周外科は聞いたことがあるけど…という人が大半だと思います。

歯周病は感染症だということを前回確認しましたよね。では、風邪はどうですか?こちらも細菌やウイルスの感染症ですね?どこで治療しますか?普通は内科に行って薬をもらってきて飲みますよね。

でも、歯科は口腔内という特殊な環境の中で治療しますので、基本的には歯を削ったり、抜いたり、修復するのが今までは大半でしたので外科的治療が主でした。

しかし、歯周病は軟組織の感染症なので内科的な治療があって良さそうなのですが、抗菌剤に対するバリアや、容易に除菌できないという特殊性から、急性期に対する対症療法としての抗菌療法以外に内科的な治療は行われてきませんでした。

しかし、2000年に熊本県の天草で開業されておられる生田図南先生によって「抗菌剤と抗真菌剤を用いた内科的歯周抗菌療法」が提唱され、歯周内科が世に出ることになりました。

生田先生のお兄さんが内科医をしていて、なぜ歯周病は感染症なのに薬で治らないのかという指摘を受け悩まれた末に「歯周病はカンジダというカビの一種(真菌)が原因で、カンジダが歯肉のバリアを破壊するために起こり、カンジダを除去する抗カビ剤を投与すると歯周病は治る」という河北理論を見つけ出して考案者の河北先生に直接連絡をとり、教えてもらったことを実践されたそうです。

すると本当に歯周病が良くなり、歯周病とはカンジダが歯肉炎を起こした後歯周病菌が感染して起こる二次的なものだと明らかになったそうです。

こうして抗カビ剤での治療が開始され約8割の患者さんで効果がみられ歯肉の状態が改善されたそうです。

しかし残りの2割が抗真菌剤で治りませんでした。

この時にジスロマックという薬が細菌のバイオフィルム内にも浸透して歯周病菌によく効くと報告され、抗真菌剤で良くならなかった人に内服させたところ劇的に歯肉の状態が変化して治ったそうです。位相差顕微鏡で観察すると一番観察しやすい歯周病菌Treponemaがほとんど消えていたそうです。

このようにして生田先生は自分の実践結果をもとに「歯周病は真菌類と細菌類の混合感染症である」との理論を提唱され、細菌類に対してジスロマック(アジスロマイシン)、真菌に対して抗真菌剤(アムホテリシンBシロップ)を使用する2剤併用療法が確立され、歯周内科という新たな歯周病治療の分野が誕生しました。

 

歯周内科における歯周病の発生と進行のメカニズム

歯周内科が考察する歯周病発生と進行のメカニズムはこうです。

  1. カビの定着と炎症の開始
    カビが歯茎について根を張り定着して歯茎に炎症を起こします。そうすると口臭やネバネバ感が感じられます。
  2. 炎症の拡大
    炎症によって歯茎が腫れ、歯ぐきがゆるくなり歯と歯茎の間の溝に汚れがたまりやすくなりカビがさらに奥の方に進んで炎症を広げます。こうなると歯ぐきが赤くなって時々出血します。
  3. 歯周ポケットの形成と骨の破壊
    歯と歯茎の間に歯周ポケットができ、ここに歯周病菌がたまり炎症がひどくなり歯を支えている歯槽骨という骨が溶けていきます。症状としては歯茎の炎症、時々腫れる、赤みの悪化。
  4. 炎症の進行と膿の出現
    歯周ポケットはさらに深くなってよりたくさんの菌がたまっていきます。症状としては歯茎を押すと膿が出る。
  5. 骨のさらなる破壊と症状の悪化
    骨はさらに溶け歯周ポケットはさらに深くなってさらに多くの菌がたまっていきます。症状としては口臭がさらに悪化、ひどい出血、歯がぐらぐらする、噛むと痛い、膿が出る、歯ぐきがよく腫れる。
  6. 歯の喪失
    歯の周りの骨が無くなり、歯が大きく動くようになり、抜かないといけなくなる状態。症状としては、歯が痛くて噛めない、歯が揺れて噛めない、歯ぐきがいつも腫れている。

以上のように分類され、歯周病は進行していきます。

これを一般的な歯周病で比較すると
注)従来の歯周病の説明なのでカビ菌のことはいっさい触れられておりません

歯周病の進行状況

  • ①、②:歯肉炎の状態
    歯周ポケットが3~4mmの図左から2つ目の歯肉炎の状態。
  • ③:軽度歯周炎の状態
    歯周ポケットがおおむね4~5mmの図の真ん中の軽度歯周炎の状態。
  • ④:中等度歯周炎の状態
    歯周ポケットがおおむね5~6mmの図の右から2つ目の中等度歯周炎の状態。
  • ⑤、⑥:重度歯周炎の状態
    歯周ポケットがおおむね7mm以上の図の一番右の重度歯周炎の状態となります。

イメージが持てましたか?

 

歯周内科治療の流れ

歯周内科治療とは、まず位相差顕微鏡にて菌の状態を観察して菌の高い活動性を確認し、真菌様像を確認して抗菌剤+抗真菌剤の抗菌療法を行って除菌を行い、菌叢の改善後に通常通りの歯石除去の治療を行うと良く治り、再発もしづらい状態になります。

菌の検査もリアルタイムPCR検査の導入など歯周内科治療は以前より進化してきました。

 

歯周内科による細菌叢の弱毒化

では、前回にもお話しした歯周病の原因や菌、抗菌薬の作用についてもっと詳しくお話ししましょう。

虫歯同様、歯周病もいろんな原因因子があり、それが重なると歯周病が発症しやすくなります。原因因子(リスクファクター)を大きく3つにまとめると1つ目は細菌(桿菌、トレポネーマ、真菌など)、2つ目は宿主(歯石、老化、代謝性疾患、免疫防御破綻、内分泌疾患など)、3つ目は環境(喫煙、口腔ケア、ストレス、咬合など)に分けられます。それぞれのリスクファクターを小さくしていけば発症しづらくなるのですが、このうち宿主と環境因子は変えづらいので、細菌のリスクファクターを小さくするのが望ましいです。

しかし、従来の概念では薬で菌叢は変えられないと言われておりました。

なぜなら、抗菌剤を長期間投与しなければならず、さらに抗菌剤を中断すると菌の減少を維持できずに再投与を繰り返すと耐性菌の問題が出てしまいます。

さらに歯周病菌は強力なバリアとなるバイオフィルムを形成し、抗菌剤が深部に到達できない問題と歯周ポケットが存在すると中が嫌気状態となり、歯周病関連菌が再形成してしまう問題があるからです。

そのため薬物だけでの細菌叢の改善は難しいのが現状でした。

 

従来の治療法と歯周内科の比較

では、従来の歯周病治療であるスケーラーを用いて機械的に歯の根面を掻把(SRP)して歯石や汚染物質を物理的に取り除く方法で細菌叢のリスクファクターは取り除けるのでしょうか。

鶴見大学歯学部教授の五味一博先生によると、SRPを行った人の歯周病菌の菌叢は量は一時的に減るものの、また元に戻ってしまい、歯周病関連菌も種類をあまり減らすことなく残存しているという研究報告があります。

それでは歯周内科も菌叢を変えることができないのでしょうか。

生田歯科医院の臨床結果として、バイオフィルムにも効果を発揮する抗菌剤ジスロマックと抗真菌剤で歯磨きすることを実践したところ、悪玉菌レッドコンプレックスを含む歯周病関連菌が激減し、時間を追うと菌数がほぼゼロになりました。長期の観察でもずっと歯周病菌がいない状態が保たれていました。お薬を飲むのは歯周内科治療開始の初回1度だけです。

つまり一度消えた歯周病菌は外部から再感染しない限り元に戻らないことが証明されています。当院でも歯周内科を行うと歯周病菌の除菌に成功していますので、その証拠としてあとで歯周病菌の歯周内科前と歯周内科後の検査結果をお見せいたします。長期のデータはまだありませんのでそちらも入手できたらいずれお見せいたします。

 

結論と今後の展望

結論として従来の治療法では不可能だったことが、歯周内科治療と早期の全顎のバイオフィルムの除去と、その後のSRPを行うことによって菌叢を変えることができ、それによって獲得した病原性のない菌叢はその後の定期検診によるメンテナンスで持続が可能となりました!

従来は細菌が作り出すプラークの量のコントロールを重視したので患者さんの歯磨きが悪くなれば再発しやすかったのが、歯周内科ではプラークの質(薬で病原性を変えること)を変えるので歯磨きが悪くなっても再感染しなければ歯周病は再発しにくくなり、歯周病のリスクファクターである細菌の問題を小さくすることが可能となりました。

次回は歯周病菌についてもう少し詳しく説明します。歯周内科の中身についても詳しくお教えしましょう。