「前歯だけを短期間で、費用をなるべく抑えて矯正したい」——そうした希望は、多くの方が抱く自然な想いです。見た目の美しさは自信につながりますし、限られた予算と時間の中で最善を尽くしたいという気持ちも理解できます。しかし、前歯だけのマウスピース矯正(部分矯正)を選択する際に、ひとつ重要な現実があります。それは、「見た目が整ったからといって、長期的な歯の健康が守られているわけではない」という点です。
部分矯正は、前歯6~8本を対象に、奥歯は固定したままという限定的な治療です。費用は全体矯正の約半分、期間も数ヶ月から1年程度と、確かに魅力的です。しかし実際には、奥歯の噛み合わせが不安定になる、後戻りが起こりやすい、最終的に全体矯正が必要になるなど、思わぬトラブルに直面する患者様も少なくありません。中には、見た目は改善されたのに、食事のときに違和感が生じたり、顎関節症につながったりするケースもあります。
では、前歯だけの矯正で本当に後悔しないためには、どうすればよいのでしょうか。この記事では、部分矯正の5つのデメリット、実際の失敗事例、そして失敗を防ぐための具体的なポイントを、歯科の専門的観点から詳しく解説していきます。メリットとデメリット両方を理解した上で、自分の歯にとって本当に最適な選択をするための判断の指針になることを目指しています。

この記事でわかること
結論から言うと、前歯だけのマウスピース矯正(部分矯正)は費用・期間の面で優れる一方、奥歯の噛み合わせは改善できないなどの限界があり、適応を見極めないまま選ぶと後悔につながる可能性があります。
- 前歯だけの部分矯正は費用が全体矯正の約半分・期間も短い反面、「奥歯の噛み合わせは改善されない」「歯を削る処置が必要な場合がある」「適応症例が限定される」「1日20時間以上の自己管理が必要」「後戻りが起こりやすい」という5つのデメリットがあること
- 見た目は整っても、噛み合わせの悪化・ブラックトライアングル・後戻りから全体矯正へ発展、といった失敗・後悔の事例が実際に起こりうること
- 部分矯正に適応するのは「奥歯の噛み合わせが正常」「必要スペースがIPRの範囲内」「骨格性の問題がない」「歯周組織が健康」なケースで、重度の叢生・出っ歯や骨格性の問題には向かないこと
- 失敗を防ぐ鍵は、精密検査(セファロ・歯科用CT)が充実した医院選び、数値と画像による根拠の確認、そして長期的な歯の健康を優先する視点にあること
- 市販マウスピースでの自己流矯正は避け、必ず歯科医師の管理下で治療を受けるべきこと
目次
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1. 前歯だけをマウスピース矯正(部分矯正)するとは?全体矯正との違い
「前歯だけを治したい」「できるだけ費用を抑えたい」「短期間で終わらせたい」。矯正治療を検討する多くの方が、こうした希望を抱いています。そんなニーズに応える選択肢として注目されているのが、前歯だけを対象にした部分矯正(マウスピース矯正)です。
部分矯正と全体矯正の基本的な違い
部分矯正とは、上下の前歯6本から8本程度(犬歯から犬歯までの範囲)をメインに動かし、奥歯はそのままの位置で固定する矯正治療を指します。簡潔に言うと「奥歯を動かさずに、見た目の改善だけを目指す治療法」です。
一方、全体矯正(全顎矯正)は、前歯から奥歯まで、すべての歯を対象に動かし、噛み合わせ全体を改善することが目的です。これは歯の位置だけでなく、上下の歯が正しく接触するバランスそのものを見直す治療となります。
この「対象範囲の違い」が、費用や期間、そして治療のゴールに大きな差をもたらしています。
費用と治療期間の比較
部分矯正の費用相場は約20万円から50万円程度で、全体矯正の約60万円から120万円と比較すると、経済的な負担は大きく軽減されます。治療期間も、部分矯正は3ヶ月から1年程度で完了することが多いのに対し、全体矯正では1年から3年をかけるのが一般的です。
部分矯正の重要な制限
ただし、部分矯正で重要な制限があります。それは「奥歯の位置を変えないため、前歯を大きく後ろに引っ込めるような移動はできない」という点です。たとえば、重度の出っ歯や叢生(歯がガタガタな状態)で、抜歯を伴うような大幅な歯の移動が必要な場合、部分矯正では対応できません。部分矯正で動かせるのは、あくまで数ミリ程度の調整にとどまるのです。
イメージで例えるなら、全体矯正は「家全体の基礎工事を含めた大規模リフォーム」で、部分矯正は「玄関や廊下の限定的な補修」といったところでしょう。限定的だからこそ、短期間で費用も抑えられるメリットがある一方、「ここまでしか直せない」という明確な境界線が存在するということです。
適切な治療選択が重要
シリウス山の手歯科では、小児歯科や矯正歯科の経験を活かし、患者様の症状に本当に部分矯正が適しているのか、それとも全体矯正を検討すべきなのかを、精密検査を通じてしっかり診断することを心がけています。「できるだけ削らず、抜かない」という方針のもと、歯を動かせる範囲を最大限に活用しながら、安心できる治療計画をご提案しています。
ご自身の歯並びが部分矯正の適応範囲なのか、それとも全体矯正が必要なのかは、専門医による診察を通じて初めて正確に判断できます。自己判断で「安いから部分矯正にしよう」と決めてしまうと、後々思わぬ問題が生じる可能性もあります。
次のセクションでは、部分矯正で特に注意が必要なデメリットやリスクについて、詳しく解説していきます。メリットとデメリットの両方を理解した上で、最適な治療選択ができるようサポートします。
2. 前歯だけのマウスピース矯正における5つのデメリットとリスク
前歯だけのマウスピース矯正は、短期間で費用も抑えられるという大きな魅力があります。しかし、その反面、見た目の改善だけを優先させることで、思わぬリスクが生じる可能性があることをご存知でしょうか。ここからは、部分矯正を選択する前に、必ず理解しておくべき5つのデメリットとリスクについて詳しく解説します。
奥歯の噛み合わせは改善されない
まず最も重要なのが「奥歯の噛み合わせを改善することはできない」というポイントです。前歯だけを動かすと、上下の前歯の接触は変わりますが、奥歯での噛み合わせのバランスは全く変わりません。つまり、見た目は整ったのに、噛む力が特定の奥歯に集中してしまう可能性があります。食事の際に「奥のこの歯で噛むと違和感がある」「発音がしにくくなった」といった症状が出ることもあります。さらに深刻な場合、そうした不正な力が長年かかり続けることで、その奥歯の寿命が短くなってしまうリスクもあります。
歯を削る処置が必要になる可能性
次に「歯を削る処置(IPR・ディスキング)が必要になる可能性がある」ということです。前歯を並べるスペースが足りない場合、歯の側面を最大0.25ミリ程度削る処置を行います。削るのはわずかな厚さですが、一度削った歯は戻りません。この処置が必要になるかどうかは、事前の診断で判断されますが、歯科医師によって判断基準が異なる可能性もあります。
適応症例が限定される
3番目のデメリットは「適応できる症例が限定されること」です。軽度のすきっ歯や軽度の叢生には対応できても、重度の不正咬合や骨格的な問題がある場合には向きません。自分の歯並びが本当に部分矯正で治るのか、安易に判断してしまうと、途中で全体矯正への切り替えが必要になるケースもあります。
厳密な自己管理が必要
4番目は「1日20時間以上の装着という自己管理が求められること」です。マウスピース矯正は取り外しができる利点がある一方で、装着時間を守らなければ計画通りに歯が動きません。仕事や食事の時間だけでなく、睡眠中も含めて1日のほとんどの時間、マウスピースを装着し続ける必要があります。忙しい生活の中で、この管理が徹底できなければ、治療期間が延びたり、思うような結果が得られなかったりします。
後戻りが起こりやすい
そして5番目が「後戻りが起こりやすい」という点です。全体矯正に比べて、部分矯正は歯根の移動が不十分な場合が多く、歯が元の位置に戻ろうとする力が強く働きます。治療後は保定装置(リテーナー)を継続的に装着し、歯の位置を固定し続ける必要があります。この保定期間の重要性を軽視してしまうと、せっかく整えた前歯が徐々にズレていってしまいます。
これらのデメリットは、手間の問題だけにとどまりません。特に、奥歯への過度な負担は、顎関節症につながる可能性もありますし、歯周組織へのダメージも累積していきます。さらに、一度崩れた噛み合わせを修正するには、最終的に全体矯正が必要になることもあり、その場合の再治療は、最初から全体矯正を選択するより難易度も費用も増えてしまいます。
シリウス山の手歯科では、こうしたリスクを患者様に正直にお伝えした上で、本当にその方に部分矯正が適しているのか、それとも全体矯正を視野に入れるべきなのかを、精密な診査診断を通じてご判断いただくことを大切にしています。安易に「費用が安いから」「期間が短いから」という理由だけで治療法を選ぶのではなく、長期的な歯の健康を優先した治療計画を心がけています。
デメリットを理解することは、決して矯正治療を諦めるためではなく、最適な治療選択をするための重要なステップです。次のセクションでは、こうしたリスクが現実に起こった失敗事例を紹介しながら、後悔を防ぐためのポイントをお伝えします。
3. 前歯だけのマウスピース矯正で起こりうる失敗・後悔の事例
デメリットやリスクをお伝えしてきましたが、「では実際のところ、どんなトラブルが起こっているのか」と気になる方も多いでしょう。ここからは、部分矯正を選択した患者様の中で、実際に起こった失敗や後悔の事例を紹介します。これらの事例を知ることで、安易な選択を避けるためのポイントが見えてきます。
見た目は改善されても噛み合わせが悪化するケース
最も多く聞かれるのが「見た目は綺麗になったのに、噛み合わせが悪くなってしまった」というケースです。ある患者様は、軽度の叢生(ガタつき)を気にして部分矯正を始めました。数ヶ月後、前歯はまっすぐに整いました。ところが、食事をしていると「前歯で物が噛みにくくなった」「奥のこの歯で噛むと違和感がある」という違和感が出てきたのです。結果として、見た目の改善はできたものの、機能面での問題が残ってしまいました。さらに詳しく調べると、奥歯の一部に過度な力がかかり続けていたため、そこに顎関節症の初期症状も見られるようになってしまいました。
歯茎の退縮によるブラックトライアングルの発生
次に「歯茎が下がって、歯が長く見えるようになってしまった」という事例です。スペース不足のため、無理に前歯を内側に入れようとしたところ、歯を支える骨が吸収され、歯茎も退縮してしまったのです。結果として、歯と歯の間に隙間が見える「ブラックトライアングル」と呼ばれる状態になり、見た目がかえって悪くなってしまいました。このような場合、セラミック治療などの追加的な審美処置が必要になり、当初予定していた予算を大きく超えてしまいます。
後戻りから全体矯正へ発展するケース
さらに深刻なのが「結局全体矯正が必要になり、費用も期間も余計にかかってしまった」というケースです。ある患者様は、部分矯正で前歯を整えました。確かに見た目は改善されました。しかし1年ほど経つと、後戻りが目立ち始めました。そこで相談に来たとき、詳しく検査してみると「奥歯の噛み合わせが不安定なため、前歯が元に戻ろうとする力が強く働いている」という状況が判明しました。このまま保定装置だけで対応するのは難しく、結局全体矯正をやり直すしかないという状況になってしまったのです。当然ながら、最初から全体矯正をしておけば、こうした二度手間は避けられたはずです。
失敗の共通する原因
こうした失敗には、いくつかの共通する原因があります。まず「診断が不十分だった」という点です。部分矯正に本当に適応しているのか、噛み合わせ全体を含めて十分に検査されていない場合があります。次に「患者さんと医師のゴール共有ができていなかった」こともあります。「見た目が整えばいい」という単純な考えだけで治療を進めると、機能面でのズレが生まれやすくなります。そして「治療後の保定管理を軽視してしまった」というケースも少なくありません。保定装置の重要性を十分に説明されないまま、つけ忘れや取り外しに至ってしまうのです。
部分矯正を成功させるための重要なポイント
部分矯正が失敗に終わらないようにするためには、治療を開始する前の段階で、歯科医師としっかり相談することが非常に大切です。自分の症状が本当に部分矯正で対応できるのか、あるいは全体矯正を検討すべきなのかを、専門的な視点から判断してもらう必要があります。
シリウス山の手歯科では、カウンセリングの段階で、こうしたリスクや限界を包み隠さずにお伝えしています。患者様の悩みに寄り添いながらも、長期的な歯の健康を最優先に考えた治療計画をご提案するよう心がけています。

4. デメリットだけじゃない!前歯だけマウスピース矯正をするメリット
ここまで、部分矯正のデメリットやリスクについて詳しくお伝えしてきました。しかし、適切な診断と管理のもとで行われれば、部分矯正には全体矯正にはない大きなメリットがあります。ここからは、前歯だけのマウスピース矯正を選ぶことで得られる利点についてお話しします。
健康な奥歯は動かさない
最大のメリットは「治療範囲を気になる部分(前歯)だけに限定し、健康な歯や現在正常に機能している奥歯の噛み合わせには一切手を付けずに済む」という点です。これは単なる経済的なメリットではなく、医学的にも非常に重要です。現在、何の問題もなく正常に機能している奥歯を、わざわざ動かす必要はありません。すでに安定した噛み合わせが存在するのであれば、それを守ることが長期的な歯の健康につながるのです。
治療ステップがシンプル
次に「治療ステップがシンプルになる」というメリットがあります。奥歯を動かすための複雑な装置やアンカースクリューといった追加的な処置が不要になり、治療計画が分かりやすく、シンプルになります。そのため、患者様も「これからどのような過程を経るのか」を明確にイメージしやすくなり、不安感も軽減されます。
経済的メリット
さらに「費用を問題のない奥歯の移動にコストをかけず、本人が一番気にしている審美的な悩みに対してのみ費用を集中できる」という経済性も大きな魅力です。部分矯正の費用は全体矯正の約半分程度に抑えられます。限られた予算の中で、最も優先順位の高い「見た目の改善」に集中的に投資できるわけです。
心理的ハードルの低さ
そして「心理的ハードルの低下」も見逃せません。「矯正治療=大掛かりで長期間」というイメージを持つ方は少なくありません。ところが部分矯正なら「数ヶ月で完了する」「通院回数も少なく済む」という見通しが立ちやすく、一歩踏み出しやすくなります。結婚式や就職活動、重要なイベントを控えている方にとって、短期間で前歯の見た目を整える手段は非常に価値があります。
マウスピース矯正ならではのメリット
マウスピース矯正特有のメリットもあります。「透明で目立たない」という特徴は、仕事や人間関係の中で矯正装置を気にせずに過ごせることを意味します。また「取り外しができる」ため、食事や歯磨きの際には装置を外すことができ、衛生管理も相対的に容易です。ワイヤー矯正と比較して「痛みや違和感が少ない」という点も、患者様から高く評価されています。
矯正とホワイトニングの並行実施
さらに、シリウス山の手歯科では、矯正治療とホワイトニングを並行して進める方法を提案しています。マウスピースの特性を活かして、矯正中にホームホワイトニングを同時に行うことで、「歯並びが整い、かつ歯も白くなる」という理想的な仕上がりが実現可能です。これは部分矯正ならではの利便性と言えるでしょう。
最適な治療選択を
適切な診断を受け、本当に自分に適応した症例であれば、部分矯正は「気になるところだけを、短期間で、経済的に改善できる」という非常に実用的で効率的な治療法なのです。大切なのは、デメリットもメリットも理解した上で、専門医とともに最適な治療選択をすることなのです。
5. 前歯だけのマウスピース矯正が「適応するケース」と「不適応なケース」
ここまでのお話で「部分矯正は魅力的だけれど、リスクもある」ということが見えてきたと思います。では、実際のところ「自分の場合は部分矯正で大丈夫なのか」という疑問が湧いてくるのではないでしょうか。ここからは、部分矯正に適応するケースと、そうではないケースについて、具体的に説明していきます。
部分矯正に適応する条件
部分矯正が適応する条件には、いくつかの重要なポイントがあります。
最初の条件は「奥歯の噛み合わせが正常で、手を入れる必要がない」ということです。つまり、奥歯がすでに安定した噛み合わせを形成していることが前提となります。現在、食事や日常生活の中で奥歯が正常に機能しているのであれば、それは守るべき資産なのです。
次に「必要なスペースがIPR(歯間削合)で足りる範囲内であること」が重要です。具体的には、3ミリ以内のスペース不足であれば、歯の側面を削ることで対応可能ですが、それを超えるスペースが必要な場合は、抜歯を伴う全体矯正が必要になります。
3番目は「骨格性の問題がないこと」です。出っ歯や受け口など、見た目の問題が歯そのものの並び方ではなく、顎の骨の大きさや位置に原因がある場合、歯だけを動かしても根本的な解決になりません。このような場合は、全体矯正や場合によっては外科的な治療まで視野に入れる必要があります。
そして「歯周組織が健康であること」も不可欠です。歯を支える骨や歯茎に炎症がある場合(歯周病)、矯正力をかけると却ってその状態を悪化させてしまう可能性があります。未治療の虫歯がある場合も同様に、先に治療を済ませておく必要があります。
これらの条件を満たす場合、部分矯正は非常に有効です。軽度のすきっ歯(空隙歯列)、軽度の叢生(歯のガタつき)、軽度の出っ歯、ねじれた歯(捻転歯)など、前歯の限定的な問題であれば、部分矯正で満足できる結果が得られる傾向にあります。また、以前に全体矯正を受けた後、時間とともに前歯だけが後戻りしてしまったというケースも、部分矯正の良い適応例です。
部分矯正が不適応となるケース
一方、部分矯正が不適応(向かない)となるケースもあります。
重度の叢生や出っ歯の場合、歯を大きく後ろに下げるために抜歯が必要になることがあります。このような場合、奥歯を動かさないという制約がある部分矯正では対応できず、全体矯正が必須になります。
深い噛み合わせ(過蓋咬合)や逆噛み(受け口)など、上下の歯列全体のバランスに問題がある場合も同様です。前歯だけを動かしても、根本的な問題解決にはならないため、全体矯正によるアプローチが必要です。
さらに、骨格的な問題が強い場合、特に顔立ちのバランスを大きく改善したいという希望がある場合は、歯科矯正だけでなく、外科的な治療(外科矯正)の検討が必要になる可能性もあります。
歯周病が未治療の状態や、重度の虫歯がある場合も、先に口腔内の状態を改善してから矯正治療を開始する必要があります。
最適な治療選択のために
シリウス山の手歯科では、これらのポイントを丁寧に検査・診断した上で、患者様に最も適切な治療法をご提案するよう心がけています。自分の症状が部分矯正に向いているのか、それとも全体矯正を検討すべきなのか、その判断は専門医による精密検査を通じてこそ正確にできるのです。
「費用が安いから」「期間が短いから」という理由だけで部分矯正を選ぶのではなく、自分の歯並びや噛み合わせの状態に基づいた、最適な治療選択をすることが、後悔のない矯正治療につながるのです。
6. 前歯のマウスピース矯正で失敗・後悔を防ぐための3つのポイント
前歯だけのマウスピース矯正について、メリットもデメリットも理解した上で「自分も始めてみたい」と考えている方へ、ここからは失敗や後悔を防ぐための3つの重要なポイントをお伝えします。これらを意識することで、治療の成功率は格段に高まります。
精密検査が充実した医院を選ぶ
ポイント1は「精密検査が充実した医院を選ぶ」ということです。
具体的には、セファロ(頭部X線撮影)で骨格分析を行い、歯科用CTで歯の根や骨の状態を3次元で確認してくれるかを確認することが大切です。これらの検査によって、初めて「あなたにとって部分矯正が本当に適応するのか」が正確に判断できるのです。
また、治療を担当する医師が日本矯正歯科学会の認定医・専門医(臨床指導医)であるかも重要な確認ポイントです。矯正治療は高度な専門知識と技術が必要な診療であり、経験豊富な専門医による診察を受けることで、診断ミスや不適切な治療計画を避けることができます。
さらに重要なのは「部分矯正の適応外の条件も正直に説明してくれるか」という点です。一部の医院では、とにかく患者様を集めるために「誰でも部分矯正で大丈夫」というような説明をしてしまうことがあります。しかし、本当に患者様のためを思う医師なら「あなたの場合は、実は全体矯正を検討すべき」と、時には難しい判断をお伝えすることもあるのです。このような誠実な対応ができる医院かどうかを見極めることは、後悔を防ぐ上で極めて重要です。
数値と画像による根拠を確認する
ポイント2は「数値と画像による根拠を確認する」ということです。
IPRの削合量(何ミリ削るのか)、抜歯の要否を数値で明示してくれているか、シミュレーションソフトで治療後の仕上がりを視覚的に確認できるかなど、感覚的ではなく科学的・客観的な説明がなされているかを確認しましょう。
当院で取り扱っているインビザラインGOは、第二小臼歯までの上下合わせて20本の歯を動かせる部分矯正システムです。さらに上のグレードにあたるインビザラインGOプラスでは、第一大臼歯までの24本の歯の移動が可能です。部分矯正といえど、前歯部だけでなく小臼歯まで標準で動かせるのが大きな特徴です。
臼歯部に冠が入っている方にもおすすめです。矯正後に補綴(ほてつ)処置によって、臼歯部の咬合を再構成することができるためです。
また、IPR(歯間削合)については、硬いエナメル質の層の範囲内で最大0.5mmまでというわずかな削合量に抑えているため、虫歯のリスクを心配する必要はありません。
また、保定装置(リテーナー)の種類や装着期間、その後の管理方法を契約前にしっかり説明してくれるか、またリファインメントや追加費用の条件が明文化されているかも、非常に重要です。「格安で部分矯正できます」という広告に惹かれても、その後に予期しない追加費用が発生するようでは、本当の意味で経済的とは言えません。
さらに、治療中に何か問題が生じた場合、歯科医師本人が直接診察してくれるか、対応体制が整備されているかも確認することをお勧めします。
長期的な健康を優先した医院選び
ポイント3は「長期的な健康を優先した医院選び」です。
「安く、早く済ませたい」というニーズは自然なものですが、その理由だけで医院を選ぶことは避けるべきです。むしろ「5年後、10年後に、この治療が良かったと思えるか」という長期的な視点で、治療計画を立ててくれるか、そして前歯だけでなく、奥歯の寿命や全体的な噛み合わせの安定性を第一に考えてくれるか、という点を重視してください。
シリウス山の手歯科では「できるだけ削らず、抜かない」という治療哲学を大切にしています。これは単に患者様の希望を叶えるためだけでなく、歯という一生の資産を守るという観点からの考え方なのです。患者様のお口の状態を丁寧に診査し、本当に必要な治療は何かを見極め、最適な治療計画をご提案することを心がけています。
これら3つのポイントを意識して医院選びをすれば、部分矯正で失敗や後悔する可能性は格段に低くなります。大切なのは「最初の診断と医院選びの段階で、どれだけ慎重になれるか」なのです。
7. 前歯だけのマウスピース矯正に関するよくある質問(Q&A)
市販のマウスピースで前歯だけ治せますか?
いいえ、市販のマウスピースを用いた自己流矯正は絶対に避けるべきです。見た目の歯並びという表層だけをターゲットにしているため、検査・診断・経過管理・緊急対応・保定という医療の本質5点セットが全て欠けています。その結果、噛み合わせの崩壊、歯根吸収、歯の喪失といった深刻な問題が生じる可能性があります。そしてそのツケは、ほぼ全て患者様本人が負担することになります。市販品は矯正器具ではなく、安全性が全く保証されていないため、歯科医師による管理のもとで行われる矯正治療を選択されることを強くお勧めします。
途中で全体矯正に切り替えることは可能ですか?
これはシステムや医院の方針によって異なります。インビザラインなどのマウスピース矯正システムの中には、途中で全体矯正へ切り替えが可能なものもあれば、難しいものもあります。部分矯正を始める際には、このような「切り替えの可能性」についても、事前に医師に確認しておくことが大切です。また、もし治療の途中で「実は全体矯正が必要だった」という判断になった場合、既に行った部分矯正の費用や期間をどのように扱うのか、その条件も明確にしておくべきでしょう。
前歯だけの矯正でもホワイトニングは同時にできますか?
可能です。むしろ、マウスピース矯正の大きな利点の一つです。矯正用のマウスピースを薬液トレイとして代用できるシステムもあり、モチベーション維持にも繋がります。シリウス山の手歯科では、矯正と並行してホームホワイトニングを行う方法を提案しています。ただし注意点として、色むらが出やすくなったり、知覚過敏が生じやすくなったりする可能性があるため、必ず歯科医師の管理下で慎重に進める必要があります。歯並びと白さを同時に手に入れたいというご希望がある場合は、お気軽にご相談ください。
執筆者・監修情報

【監修】シリウス山の手歯科 院長 島貫 光裕(しまぬき みつひろ)
診療科目:予防歯科/虫歯治療/歯周病治療/小児歯科・矯正歯科/審美・ホワイトニング
「できるだけ削らず、抜かない」を治療方針とし、『日本小児矯正研究会』所属歯科医院として、歯を保存する保存的な矯正治療に取り組んでいます。
略歴
1985年3月 函館ラ・サール高等学校 卒業
1992年3月 北海道大学 歯学部 卒業
1992年〜1997年 北海道大学歯学部 第2保存学講座(歯周病学) 在籍
1997年〜2001年 とだて歯科医院 分院長
2001年4月 シリウス歯科クリニック 開業
2018年3月 シリウス山の手歯科 開院
所属学会・所属団体
• 日本歯周病学会 会員
• 日本小児矯正研究会 評議員
• 国際歯周内科学研究会 会員
•日本保育歯科協会


